「金庫だ! あ、でも開かないね。」
あの後、何事も無く廊下を抜けて、最初に日本さんが入って行った部屋―――キッチンをちらりと見て、そのまま奥の部屋へと入った。そこに有ったのは金庫で、ほかにめぼしい物はなさそうだった。イタリアさんの発言にドイツが突っ込みを入れる、この二人は通常運転で傍から見ていると微笑ましい。この状況に平常心が保てそうになかったので、癒しとして私の心のフィルターに焼き付けておくことにした。
「四桁の数字をいれるようだな……。」 「今では情報不足ですね、報告に回しましょう。」 「残念〜。」
これからどうするか、何処を探せば脱出への糸口があるのだろう。その時、脳裏に浮かんだのは先程の和室の映像だった。あ、と声を零すと二人がこちらを見たので口を開いた。
「先程の和室で化け物が出てきた所に何か落ちていたのを見たので、取りにいきませんか?」 「それは本当か! よし、行こう。」 「了解であります!」
和室で見つけたのは小さな紙切れだった。破られている跡がある、対になる同じような紙があるのかもしれないと一人思考を巡らす。イタリアさんが「パスタの断面図とかー!」と声を上げた。「なぜ……。」と余りの突飛した考えにドイツと同じことを口に出した。何でですイタリアさん。なんだろう、頭を悩ませていたため、しん、と静まりかえっていた部屋の静寂を破ったのは、シンプルな機械音だった。 飛び上がって叫び声をあげたドイツの声に驚いた、苦手なのは理解するし、共感もする、けれどこれは少し心配になる。大丈夫なの私たちのライヒ。私がしっかりしなければ。決意を新たにした瞬間だった。
「この音は……お前の携帯電話じゃないか?」 「え!あ、ほ……本当だ。なんで? ここ、電話繋がらないじゃん!」
それを示すように、取り出したイタリアさんの携帯の画面に電波の表示はされていない。ただ、”非通知”と無機質なフォントで表示されているだけだった。ドイツの声に急かされて、イタリアさんはおそるおそると携帯を耳に当てた。ピッ、小さな電子音の後に、「チャ……チャオー……。」と空元気な声でそう呟いた。ごくり、生唾を飲み込んで反応を待った。
「……え?」 「どうした?」 「イタリアさん……?」
携帯を耳から離し、少し画面を見た後、彼はそれを閉じてポケットへ仕舞い込んだ。表情はどこかぎこちなく、理解が追い付いてないようであるように見える。そして、困ったような笑みを薄く浮かべこちらを見た。
「よくわかんない。なんか音が聞こえて、切れちゃった。」 「音?」 「ピアノの音。一音だけだったけど、なんだったんだろ?」 「ピアノの音か。ふむ……。紙のこともあるし、イギリス達の所へ戻ろう。日本達もうまくいけば合流しているだろう。」 「そうですね、怪我してたら手当してさしあげなければ……。」 「じゃあ、ピアノのある部屋に戻ろうか。」
「怪我……か。」
あの人は、大丈夫なんだろうか。怪我していないだろうか。視覚に見えないものは断言できない、ただ不安だけは断言できる程に大きくなっていることを感じていた。二人は大丈夫だと言ってくれたけれど、こんな状況で最悪の事態を考えてしまうのはやはり自分の女々しい部分だと思う。なんで、信じられないのだろう。全てを信じてあげられないのか。 それでも、今は前を向かなければいけない。信じることが難しいならば、私が迎えに行くぐらいの気概を持って行動すればいいだけの話だ。 見つけ出して、その手を取って、この館から脱出するんだ。
信じる事と疑う事は紙一重
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