不気味な洋館、アメリカの発砲、見えないイギリスの妖精、燃えていた日本の血の付いた服、居なくなったフランス。
 何がどうなっているのかその時のイギリスたちには分からなかった。
 ただ、目の前の非現実的な光景は、仲間が危機にあることだけを冷酷に告げていた。
 あれは、何だ? 自身の心に聞いてみても、返答は帰ってこない。
 何でロシアとカナダがあんな化け物と対峙しているんだ? なんで、血が流れているんだ? 整理のつかない頭のまま、「加勢するぞ!」とするりと自身の口から自然と零れた台詞に押されるようにしてイギリスは本を開き、魔の力を秘めた言の葉を口にした。
 ロシアは仕込み刀で何とか防戦を繰り出していた。状況の未だ飲み込めてないカナダはあたふたとしつつも冷静な部分もあるようでロシアの邪魔にならないように攻撃を繰り出す。一方で中国は体術を駆使し、なんとか化け物の体に技を叩きこんでいる。しかし、戦況はどう見ても押され気味だ。イギリスも詠唱をしてみるが、現れた召喚獣は言ってはなんだが陳家なものであった。

「あーあー。本当、やんなっちゃうね。全然利かないじゃない。」
「イギリス! お前なんで全然役にたたねぇある!」
「いや、その……スマン。なんかこの空間自体が、魔力を封じてるのか全然、力の一部しか使えねぇみたいだ……。」
「厄介な場所ある! 我もう力でねぇある……。」

 敵が、ゆっくりとイギリスたちの方へと向き直った。その視界に確かにイギリスをとらえ、その鋭い爪を光らせ、腕を高く振り上げた。殺される。一瞬だけそんな言葉が脳裏を過る。叫び声をあげる事すらできない。ああ、ああ。
 刹那、頭上で何かが一閃した。
 身をねじり、辛うじてかわせたのは、敵が頭上に意識を移したからだ。それを隙になんとか避けることができた。イギリス目掛けて繰り出されていた技は床を抉る結果に終わる。しかしそれを敵が認識するよりも早く、けたたましい苦痛の声が響き渡った。同時に、凛とした声が確かな殺気をにじませながら紡がれる。

「困るんですよ。私の友人に手を出すのは。」

 信じられない、そんな意味を孕んだ声があちこちから飛ぶ。涼しい顔であたりを見回す日本。微かに笑みまで湛えながら、また敵に向き直る。握りしめている刀には、化け物のと思われる血がべったりとついていた。

「これは皆さんお揃いで。しかし、話はもう少々後でお願いします。」

 敵を倒すために刀を握りしめる日本に、カナダが静止をかけ、ロシアが笑顔で手伝いを申し出た。しかしそれを不必要だと一蹴した。怒りに満ちた声色だった。ギギギとまるで壊れたロボットの様な不快な音を立てながら化け物は彼を視界にとらえた。ドクドクと流れる血が、ソレの足元に水たまりを作っている。

「……随分と暴れましたね。これだけ傷を負わせるとは、私も少々本気でかからせていただきます。」

 そこにいた国々は昔の情景を思い出していた。第二次世界大戦、最後まで戦い抜いた極東の帝国の姿を、今や平和ボケしたとばかり思っていた国に重ねていたのだ。

「怒りの発散相手には、丁度いい!!」


遺憾の意


 音も無く声も無く、飛躍する。飛びながら勢いよく薙ぎ払う、真っ二つに切り裂かれた化け物は、シュウと音をたて、消えた。瞬く間の出来事だった。

「わあ、カナダ君みたいになっちゃった。」
「普通に消えたって言って下さい。」

 カナダの声は弱弱しかった。

「……急ぎましょう。少し心配ごとがあるので。」


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