寝ずの番を置いて寝よう、その提案は直ぐによしとされた。真っ先に手を挙げたのは私だ。明日もきっと体力を使うだろうし、その為にも四人にはきちんと睡眠をしてもらって体力を回復してもらいたい。自分は寝なくても大丈夫ですから、と半ば強引に言う。これは無理も多少はあるが、その昔、寝ずに戦に出ていたこともあったため少しばかり自信があったからだ。
「いや、公平にジャンケンで今夜の見張りを決めましょうか。」 「ですが、」 「ジャ、ンケ? どういうルールなの?」 「はい。ええとですね……三種類の拳で勝敗が決まるとてもシンプルな遊びでして……。」 「なんでもいいから早くやろうぜ〜。俺はかなり眠てぇ! 早く寝てぇ!!」 「兄さん。少し待ってくれ。」
日本さんが淡々とジャンケンについて解説していく。ああ、そんなことしなくても私が寝ずの番ぐらいすると言うのに。そう悶々と思っている間に解説が終わったので、早速そのジャンケンをすることになった。拳を出して、凄い気迫の日本さんの「最初はグー……、」という掛け声と共に手を開いた。
「あ〜……。もうマジで、一人楽しすぎるぜ〜……。」
段々と語尾が弱弱しくなっていく。無理に出したのがバレバレな声は、プロイセンのすん、と鼻を啜る音と共に消えて行った。
「しっかし四人共、熟睡じゃねぇか……。」
椅子から移動し、四人の寝顔をうかがう。固い床の上に布を引いただけのそっけない寝床だと言うのに、互いに体を寄せ合っている男三人はまるで天使のような表情のまま眠りについていた。 その三人からさして離れてない所で、丸まって寝ている人物に近づく。まるで猫のようだ、陳腐な表現だと一人苦笑した。 巻かれた包帯に負けず劣らず、白い肌。けれど細いがしっかりとした腕からは、やはり剣の使い手だと言う事がうかがえた。傷が所々に見えるのが少しだけ痛々しかった。
「あーあ。パソコンでもありゃ、ブログ更新できんのによ……。寝顔とって遊ぶしかねぇじゃねぇかよ〜。」
パシャリ、シャッターを焚いて寝顔を撮る。少しだけ眉の間に皺がよっている。夢の中でも固いこと考えてるのか。昔、過去に酒屋で一度だけ眠ってしまった彼女の顔を見たことがあるが、あの時は酒のせいでもあるがふにゃふにゃとしたアホを体現させたような顔をしていた。その後、宿舎まで背負っていったのも懐かしい思い出だ。あの時みたいな顔を、お前はしてればいいんだ。守られてればいいんだ。ぐりぐりと親指の腹で彼女の眉間を解す。すると、少しだけ和らいだ表情になった。プロイセンは得意げに笑った。
「ん……。」
漏れた息が、不意に耳に掛かる。思わず小さな変な声がでそうになった。何故だ、何故色っぽいんだ!? 小さく呻く声が色っぽく聞こえたのは、格好のせいでもあったのだろう。肌蹴そうになっていた服装をきちんと整えて、まだ理性のある行動が出来るうちに元の位置に戻った。
ガチャ、ガチャ
忍び寄る悪意
背筋が寒い。 寒い。 ぞわりとした悪寒が、背中を舐めるように這い上がってくる。
「おい、おい。マジかよ……。」
視線の先で、確かにドアノブが煩くなっている。 直ぐ傍に寝ている四人は起きる様子を微塵も見せない。 行くしかない。彼は決断を迫られていた。
―――たった一人だとしても。
「俺はまだ消えねぇぞ!」
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