階をあがる、どうしてか不安で、心臓がやけにうるさかった。握りしめている掌にはうっすらと汗が滲んでいる。どうしてだろう。何か、大切な物を失ってしまいそうで。きっと、ギルベルトたちと合流できればそんな不安もなくなる。早く早くと扉を開けると、目の前の光景に思わず口をつぐんだ。そして、剣に手を掛けていた。イタリアさんと日本さんが驚く声が飛ぶ。

「チッ……。来るのが早すぎるんだよ! 日本! 二人……イタリアちゃんをつれて逃げろ!」

 そう訂正したのは、既に私が二人の傍に走り寄っていたからだ。剣を抜く、会話の為にできた僅かなスキを突こうとしていた化け物の攻撃をなんとかはじく。じんじんと鈍い痛みが走った。ギルベルトはこの馬鹿が!とでも言いたげな視線を一つ寄越した。

「イタリア! 無事だったのか!」
 ドイツの声色は嬉しそうだった。そうだ、二人をもっときちんとした形で再会の喜びを感じられるようにするためにも、私は戦わなくては。
「ここは俺達でどうにかする! だから早く逃げろ!」
「……。」

 日本さんは無言だった。そして、けろりとおどけたような表情をみせる。

「はてさて……。じじいは耳が遠いので、何をおっしゃっているか全く聞こえません。」
「はぁ!? おい! イタリアちゃん!」
「あ、えと……。俺も、突然耳が聞こえなくなったであります!」


「懐かしいではありませんか。枢軸の名の下、また再び剣を取るとは。」

 刀が鯉口を斬る音。

「そう言えばそうだね〜。最近平和だったからすっかり忘れてたよ〜。」

 柔らかな、笑い声。
 ドイツが少し顔を歪ませながら、二人の名前を呼ぶ。友情とは、綺麗なものだ。ドイツにも、いい友達ができたものです、と一人嬉しくて小さく笑った。


「義によって助太刀いたす。と言う事です。行きますよ。イタリア君。」


 世界一かっこいいおじいちゃんの掛け声とともに、戦闘が始まった。


爺と孫の聴力障害





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