停滞部屋 | ナノ
初対面





『ねぇ菊さん、今日はなにしてるの?』

―――・・・これから散歩するところです、はるさん一緒に行きませんか





『菊さん』

―――・・・!・・・えっと、はるさんお久しぶりです




『・・きくさん・・・・・』


――――・・・・・・・・・・・・・?


『・・・・・・・・・・・・』


――――・・ぽちくん何処を見ているんですか?




いつからだろう菊さんが私を見なくなったのは。



いつもの縁側に腰掛けてかつての友達を想う、尤もその友達は隣にいるんだけど。


『菊さん、』


「・・・・・」


声を掛けても反応は無い、数十年前からそうだ。

理由もなんとなく知っている。


文化が変わってしまったから国民が座敷わらしの存在を忘れてしまった。

私は一番長生きしている座敷わらしの妖怪、座敷わらしの象徴と言ったほうが正しいかもしれない。


だから国である菊さんは私が見えなくなった。



きっと、そんな理由。




*





今日は梅の花が満開に咲いた日。



菊さんが買ってきたお茶菓子をつまみ食いしながらいつものように縁側に座っていると呼び鈴の音がした。



「はーい!・・・誰でしょうか」

お茶を飲んでいた菊さんが立ち上がり対応しに行く。

なんとなく人見知りな私は離れてその様子を伺うことにした。





「ケッセッセ!遊びに来てやったぜ菊ー」

「誰かと思えば・・・ギルベルトさんでしたか」


外国特有の高い身長で銀色のような髪色と赤い目、少し怖いと思ったのが第一印象だった。

言葉が通じているのは国同士であるからだろう。


「どうされたのです、こんな突然」

「最近暇でよ、こうやって色んな奴の家に回ってんだ」

「そうでしたか・・・まぁ玄関ではあれです、あがってください」



わ、こっちに来る


――――トタトタトタ・・・



足音が響くけれど今更反応する人は居ないだろうと気にせず逃げた。




「菊、なんか子供でもいるのか?」

「え?居ませんけど・・・アーサーさんもそんな事言ってましたね」







いつも菊さんはお客さんが来ると茶の間の部屋へ案内する。

だから今日は菊さんが集めている漫画のたくさんある部屋で過ごすことにした。

一応妖怪だからさむくないし。







*




何冊か読んでいるうちに日が落ちてきていた。

お客さん、帰ったかなぁ。


『・・・・・・・・・わっ、』

考えながら本棚を眺めているとなにかにぶつかった。



目の前にはベルト。ズボン、シャツ・・・・・・



『ひと!?』

「なに驚いてんだよさっきから居ただろ」

『えっ?でも私・・・どういうことですか!?』

「なに言ってんだ?」


ぶつかったのはさっき来ていた銀髪の人、片手に何冊か本を抱えているからきっと菊さんに借りに来たのだろう。

でも・・・私がぶつかるなんて。



私は座敷わらしの妖怪だから霊感とかが見える人には認知される。ただ零体なので触れたりすることはごく稀だ。



『もしかして、おばけですかっ!?』

「あ?」

『いやでも西洋の霊はこんなところに・・・』

銀髪の人はいったいなにものなんだ!?



あたふたしていると洋式のドアが開いて菊さんが入ってきた。


「ギルベルトさん、だれかとお話されていたんですか?」

「菊、こいつなんなんだ?おばけとか言ってんだけどよ」


私を指差して菊さんに伝える銀髪さん(人に指差しちゃいけないんだー!!)

でも菊さんは不思議そうな顔。



「誰か、いらっしゃるのですか?」

「・・・ん?ここにいるじゃねーか。」


ぽんぽん、と頭の上に感触。

『!?!?』

こんな触ってくる奴はじめてだ!なんなんだ!!


「ギルベルトさんパントマイムお上手ですねぇ、でもお風呂が冷めちゃいますよ。行きましょう」

菊さんは銀髪さんを華麗にスルーして行ってしまった。


「あ!?・・・・・・・・まぁいいか」


まあいいかじゃない!!!!!





***
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