停滞部屋 | ナノ
ぎゃー!



「とりあえずここに座れ」

『なんで言う事聞かなきゃいけないんですか』

「いいから座れ」

『・・・』

なんて俺様な人なんだろう。
見た目から大きくて怖いのに余計近寄りたくない感じ。


癪だけど腕を離してもらえないから大人しく座った。


「あー・・お前、名前は?」

『・・座敷わらしです』

「ざしきわらし?」


よし、手が離れた!逃げよう!


「あっこら逃げるな!」

『いやだ!やめてください!』

今度は羽交い絞めにされた。

やだこの人!



『・・・・・・・。』

「よし、落ち着いたな。」

大変不服ながら銀髪の胡坐の上に収まってしまった。

両手で抱えられてるから身動きが出来ない。


『・・・・』

「そんな顔すんなって、俺ギルベルト。お前それホントの名前じゃないだろ?名前教えろよ」

『・・・・・・・はる。』


「はるだな!よろしくな」




よろしくしたくない。

けれど久しぶりに呼ばれた名前に何かがこみ上げてきた。


『・・・・・・・』

「どうした?」


顔をのぞくな、と言いたいけれどその前に赤い目と目があった。


「おい、泣いてんのか?」

『ちょっと・・・すみません、放っておいてくださ・・・グズッ』

涙なんて何年ぶりだろう。

止めたいけれど止め方も思い出せないしぬくもりを感じれば感じるほどあふれ出た。



『もうはなしてください』

「変わったやつだなぁ、お前」

『・・・・・なんでですか』



「ほれこっちむけ」


『!』




ぎゅうぅぅぅぅぅっ




くるっと向きを変えられて向かい合わせになった瞬間、涙も鼻水も関係なしに思いっきり抱きしめられた。


「さみしいなら引っ付けば良いんだぜ!」

けせせっと特徴的な笑い声を出しながら彼は言う。



さみしい、


『っ』



なぜか突然現れたはずの彼は私の長年の悩みの原因を突き止めていた。



『うっ、く・・・・ぅ』

「泣け泣け。スッキリするからなぁー」


ぽんぽん。

まるで幼子をあやすように背中を優しく叩いてくるリズムが気持ちいい。



結局それからはしばらく嗚咽で呼吸が出来なくなるくらい泣いたのだと思う。

その間彼はずっと私の背中を優しく撫でていた。



*





ぱち。



目を覚ますと布団の中。

見慣れた客間の天井、ギルベルトさんは・・・。




『いない・・・』


もしかして。



あれは夢だった?

それに現実だったにしても申し訳なさ過ぎる。



じわ、さっき流しつくした筈の涙が視界をぼかしていった。

『ぎるべるとさん・・・・・』



また、きっと誰にも名前を呼んでもらえない。


それがまた、ずっと・・・・



『うっく・・・ふぇっ・・・』


ぼたぼた大粒の涙が頬を伝い出して止まらない、やだな昔はしっかり者だと菊さん達に褒めてもらったのに。

それすらも、



―――ガラッ!!



「うぉっ!・・・なんだまた泣いてんのか」

『ずびばぜん・・・・』


勢いよく開いた障子からは洗面器とタオルを持ってきたギルベルトさんがいた。



『ぎるべるとさんいなくなちゃったから、ゆめかとおもっっ・・・うっ』



普段はこんなに甘えたでは無いのに、節操無しに見られやしないだろうか。


そう思ってなんとか堪えると少しずつ涙は止まってきた。


「夢じゃねえよ、そんだけ泣いたら疲れたろ。菊に布団持ってきてもらったんだ。あとこれ顔に乗せとけ」


ほんのりあたたかい濡れタオルを私にくれたギルさんはてきぱきと布団やらを整えてる。


『あっ、本当にすいませんご迷惑をお掛けしてしまって・・・』

「お前謝ってばっかりだな」


変な奴!ケセセ!と不思議な笑い声で快活に笑うギルベルトさんの様子を見ていると不思議と心が落ち着くようだった。




*





「・・・・・・・・・ん」



どうしたんだっけ。



あぁそうだ、自分は確かギルベルトさんの前で泣いてしまって・・・それから蒸しタオルを貰って・・・


・・・思い出せない。



少し朧げな目で天井を見上げる、どこかから小鳥の鳴く声がした。


「朝・・・?」


布団から出た腕が感じる少しひんやりした空気と背伸びが手伝って意識が覚醒していく。


また寝てしまったのか私は。

普段なにもなかった分疲れやすくなってしまったのかもしれない、



気を付けないと・・・そういえばギルベルトさんは?




・・・背中に暖かい大きな壁のような感触を先程から感じている。


まさか


「・・・・・。」


ゆっくり振り返るとなんとなく予測が付いてしまっていた彼の寝顔があった。

スキンシップが多い外国人だから抵抗などなかったんだろう、私は子供の姿だし・・。


鼓動が早くなってしまった自身の心臓が嫌に恥ずかしい。


にしたってこの人はなんなんだ、初対面の人間と同じ布団で眠るなんて頭がおかしいんじゃないか!



「ん〜・・」


「!」


ゴソゴソしたからか腕枕をされていたらしい私の頭部はギルベルトさんの腕によって包まれた。

目の前に彼の筋肉質な胸板と彼のにおいと心臓の音、


「〜〜〜〜〜っ」



はずかしいいいいい


さながら少女マンガの主人公の気分だ。




「ぎるっ・・べると・・さんっ!おきて!・・・むぎゃっ」

体をモゾモゾさせて腕の中でもがくと更に体を締め付けられた。

ちょっと・・もうだいぶ痛い・・



どうして彼は実体の無い私をこんなに触る事が出来るんだろう、しかも無意識。


そんな幸せそうに寝息を立てる彼が起きてくれるまで私は意識を目の前の異性から逸らす事に専念した。





つづく


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