鬼道の恋人であるところの不動明王はモノスゴク手が早い。 さらに言うと頭の回転も速いし口のまわりもすさまじく、腰も軽けりゃ尻も軽い。 (最後の問題は、鬼道と付き合うことで今はおさまっているのだが。) それはそうとして、自分と不動はよく一緒にいるほうだ、と鬼道は思っている。 ただ、問題は、鬼道が想像する「一般的な、付き合いたての恋人同士」というのが不動には通用しないことだった。 現に今もキスをしている間に不動は鬼道のシャツのボタンを三つ四つ外している。 場所は鬼道に割り当てられた部屋、ベッドの上だ。 このまま行くといつもどおり不動にされるがままソレ方面へ誘導されてしまうだろう。 もともと、鬼道だって嫌いなわけではないのだ。 むしろ不動は100パーセント気持ちいいことしか鬼道にしてこないし、別に鬼道は痛いのが好きとか我慢するのが好きとかいった性癖は持ち合わせていない。 そうするともう流されるしかないわけだ。 しかしエッチばかりでヤルしか考えてないのかと言われれば、そういうわけではない。 不動の愛撫の一つ一つから「鬼道が好きだ」と伝わってくる。 それは鬼道にとってまったく頭がおかしくなりそうなほど嬉しいことだった。 しかしながら、いかんせん肉体的に疲れる。 不動は経験の差か次の日もぴんぴんしているが(心なしか肌もツヤツヤのピカピカで綺麗になっている)、鬼道は余韻が抜けずぼーっとしていることも多い。 というわけで、鬼道はこれとはまた別のことで、自分の幸福を味わってみたかった。 いったん顔を離して、自分の身体にかかった不動の手首をつかむ。 「なに?」 「あのな……」 不動は大きな目で鬼道をのぞきこんでくる。 「たまにはしなくたっていいと思わないか?」 鬼道は言った。 「鬼道くんは他に何がしたいんだよ?」 「そう聞かれると困るんだが……まあべつに二人でいるだけでも俺は」 満足しているぞ、と言うと、なぜかつまらなさそうな顔をする。 不動はふうんとだけつぶやいた。 少し居心地が悪くなった鬼道がぼんやりしていると、隣に座っていた不動が上半身もベッドに沈ませる。 そのままちょいちょいと鬼道のジャージの裾をひっぱる。 「なんだ?」 鬼道が隣に寝転がると、狭いベッドで二人の身体が少し重なった。 寝間着代わりのスウェットごしに、かすかに不動の体温を感じる。それだけで幸せだ。 これだ。こういうフツーの付き合いが、自分はしたかったのだと鬼道は思った。 鬼道が満足して不動の頭にチュッと軽くキスをする。 その瞬間だけ不動はぱちぱちと目を瞬かせた。 「あのな……」 不動が鬼道の首に手を回す。 「別に、言ってなかったけど、オレ鬼道くん好きだぜ」 「えっ」 「好き。ほんとーに好き。一緒にいて楽しい…し、もっとベツのこともしたいと思ってるよ、もちろん」 「不動……!」 しろくてふわふわに柔らかい頬は鬼道が不動の顔で最も気に入っている部分の一つだ。 それを少しだけ染めて言う不動に鬼道は感極まる。 そして鬼道が不動を抱き返そうとしたそのとき、ヒョイと不動は身を翻した。 鬼道の腕がむなしく宙をかく。 あまりの変わり身の速さにあっけにとられて鬼道は不動を振り向いた。 小さな部屋のなかで、さっきまで鬼道にひっついていた不動は既にドアをすぐ背にして立っている。 してやったりといった顔で目を細める不動。 さっきのしおらしさは宇宙の彼方へ、その表情は本当に悪魔的だ。 「今日はヤんねーんだよな!じゃっ、オレ源田んとこいってくっから!」 「まっ待て!!」 鬼道が制止するもむなしくドアの隙間から手をふられ、「バイバーイ」という声のあと不動の笑い声が遠ざかる。 「やられた…!!」 鬼道は間抜けな自分に悪態をつき、ベッドから飛び降りた。 不動が自分に素直になる日が自分にもいつかくるのだろうか? 考えるほど不毛になりそうな問いを頭の隅におしやる。とりあえず今は。 馴染みのマントを翻して、鬼道も恋人を追いかけるために部屋を出て行った。 初心鬼道×小悪魔不動 しっくり来るノリの鬼不を探して今回は初心に返った感じになりました。 |