不動には知り合いが多い。 特に街を歩くとそう思う。 いつどこでどうやって作っているのかはわからないが、不動と外に出ると必ず人に声をかけられる。 クラスメイトではない、他の学校の生徒。 大人も多い。 隠居生活を楽しんでいるといったふうの人の良い老人から、きわどい格好の水商売の女性まで。 老若男女不動と顔を合わせると親しげに手を振るのだ。 不動はそのたび楽しそうにしているが、鬼道のほうは肩身が狭い。 こないだいかにもそれらしいやり手のホステスと顔を合わせたときなどは、いきなり「あんたの彼氏?」と爆弾発言を落とされた。 鬼道がしどろもどろしていると「そお、なかなかカッコいいだろ?」とめずらしく上機嫌の不動に腕に抱きつかれ、 鬼道は嬉しいやら恥ずかしいやらで赤面してしまい、二人から散々からかわれたということもあった。 その日も鬼道は不動と二人でぶらぶらと歩いていた。 特に目的があるわけではなかったが、好きな人間と一緒にいるだけでうれしいものだ。 今日は鬼道はゴーグルをつけていない。 今日待ち合わせ場所に現れた不動が「だいじょうぶ?眩しいんじゃねえの」と言ってくれたのを反芻するだけで、鬼道の気持ちははずんだ。 「あ」 「お、久しぶり」 少し開けた石畳を歩いていると、不動の顔を見た人間が立ち止まった。 不動も振り返る。 高校生か、もっと上で、成人しているかもしれない。 不動と同じ色白で、黒っぽい短髪の若い男だった。 どうやらまた不動の知り合いのようで、すぐに男から距離を詰めてきた。 「へーメッシュいれたの、かわいいじゃん」 「お前は相変わらず煙草クセエな、近づくんじゃねえよ」 ひでーと笑いながら不動の髪の毛を指先で弄ぶ。 不動もうざったそうな顔はしているが、無理矢理その手を振り払ったりはしなかった。 どうやらかなり親しい仲らしいと思った鬼道は、その光景を見て眉根を寄せた。 不動が男が拒まないのも、自分の知らない不動を男が知っているのも気に入らなかった。 不動が鬼道のそばに寄る。 男は初めて気づいたかのように鬼道にも声をかけた。 「そっちはぁ……?」 「クラスメイトだよ」 不動が言う。 その言葉に少なからず鬼道はショックを受けた。 「ふうん」 「じゃな、もう行くトコあるから」 「ああ……、あ、本取りに来いよな」 不動はそれに軽く左手を挙げて答えた。 右手は鬼道の背をぐいぐいと押して、その場から立ち去る。 鬼道がちらりと後ろを振り返ると、男はまださっきの場所から動かずこちらを見ていて、ますます鬼道の胸にモヤモヤした感情が噴き溜まった。 そのまま外にいるには気分が乗らず、DVDを借りて鬼道の家で見ることになった。 二人で並んでソファに座り、不動はリモコンをいじっている。 「ずいぶん親しそうだったな」 「ああ?は、まあな」 無言の不動に鬼道が話しかけると、不動は口元だけをつり上げて笑う。 鬼道は知っている。 この笑い方をするときは何か隠し事をしているときなのだ。 おそらくさっきの男と不動は付き合っていた過去があるのだろう。 そういうことに疎い鬼道でも分かった。 不動はどういうつもりかしらないが、男のほうはあからさまに不動にいやらしい目線を向けていた。 こちらを向かない不動の細いおとがいに手を伸ばすと、不穏な空気を察したのか不動が鬼道の手をたたき落とした。 「…!やめろ!」 「なぜ?」 あいつには触らせたくせに。 鬼道の青い炎はますます胸中で燃えあがった。 もう一方の手で強く不動の肩を押して、むりやりソファに縫いつけた。 「何怒ってんだよ」 「…………」 「おいってば!」 鬼道は答えないまま、不動のTシャツをたくしあげた。 そのまま腹に吸い付く。 何回もくりかえして、いつもはつけない跡をいくつも残した。 不動はそれを戸惑いながら見ていた。 鬼道の手が下肢まで伸びて、七分丈のズボンの裾から伸びる脚をなでるとやっと声を上げる。 「んんっ……」 「ずいぶんと色っぽい声だな」 「来い」 服を半ばまで脱がせると、部屋についている小さなバスルームに不動を連れ込んだ。 タイルに引き倒されて、どこか打ち付けたらしい不動は呻く。 不動は怯えたような目で鬼道をにらんだ。 だがその目の奥に、期待の色を見つけて鬼道の首筋が興奮でそそけたった。 そのまま白い首筋にかみつくと、不動が苦痛の声を上げる。 「ウウッ、やめ……痛、い!」 鬼道はまだ不動をおさえつけていて、振り払おうともがいた不動の腕がシャワーの栓に当たった。 水が勢いよく降り注ぎ、二人はびしょ濡れになる。 鬼道はそれにかまわないまま、不動をむりやり立たせて、鏡と向かい合わせになるように手をつかせた。 鏡はすぐに曇ってしまって二人の姿は見えなくなってしまった。 濡れた不動の服をすべて脱がせて、乱暴に指で慣らす。 不動は歯を食いしばって、声を出さないように耐えていたが、鬼道は何も言わず無言だった。 「ひ、まさか……、やめろ!イヤだっ!」 「聞かない」 短い前戯のあと、鬼道は性急すぎるほどに強引に事を進めた。 不動に肘を曲げさせ、掌を自分の手で拘束する。 額も鏡にくっつけさせるほどに強く押しつけて挿入する。 「ううぅ……!」 不動が辛そうに顔をしかめた。当然だろう。 「い、たい、いたいっぁああッ!」 「っ、息をはけよ……!」 不動が我を失ったかのように叫ぶ。 風呂場に不動の声が反響して、わああんと余韻が響いた。 鬼道はそれでも腰を打ち付けるのをやめなかった。 あの男は。意地悪そうな顔だったな。不動はああいった年上に弱いのだ。 こいつはいつもは偉そうな態度のくせに、妙に人の被虐趣味を煽るから。 ……あいつもそうだったのもしれない。 鬼道はいつもより強い締め付けに喘ぎながらもそんなことを考えた。 不動の抵抗する力は、もうとっくに失せていた。 「は、ハァ、あ、あっ……ッうう……」 膝ががくがくと震えて座り込んでしまいそうになるたび、鬼道は体を押しつけて不動を立たせ続けた。 上だけ残したTシャツも、ずりさがってくるとまたたくし上げた。 そうするついでに弱いところを強すぎるほどに鬼道がまさぐると、不動は耐えることなくなすがまま喘いだ。 さらに鬼道が指で口内をかきまわす。 息苦しくてどうしようもなくなった不動は、生理的な涙で頬を濡らした。 そのうち本当に意識がもうろうとしてきて、不動はもうわけがわからなくなる。 がくんと首が落ち、腕はちゃんと鏡につっぱったままだが、意識はふわふわと夢の中をさまよった。 「――――あっ……う、んんっ あ、っ あん、………」 しかし突かれるたびに勝手に漏れ続ける自分の喘ぎ声で、不動は浮上した。 意識が無い間も、声をずっと出していたことに耳まで真っ赤になる。 不動が目を覚ましたことに気づいた鬼道が、不動の手に自分の手を重ねて背中に覆い被さってきた。 「ううーっ…!」 耳たぶを噛まれて、不動は悔しさが混じったうなり声をあげる。 せめてもの反撃として、不動は下腹部に力を入れ、意識的に体内の物を締め上げてやった。 一瞬目を見開いた鬼道が、肩をふるわせて耐える。 少し溜飲が下がって口角をゆるめると、なぜか背後の鬼道に伝わったらしく、いっそう奥を突かれて不動はのけぞった。 肺が酸素を求めて、息をつかせようとするが、そんな余裕もなくがんがんと立て続けに責められて、不動の喉がヒュッと音を立てた。 「や、やめ、ああっ きつ、い、あぁんっ!あッ、ッ――――!」 「くっ、締まる……!」 ぱたぱたと音を立てて不動の白濁液がタイルに散るとほぼ同時に、鬼道も達した。 息を整えていると、不動の内ももに、細く鬼道の出した物が伝う。 「ふ、んん、………ちくしょう、」 それが自分でも分かったらしい不動が、中に出しやがってと文句を言いかけた。 しかしそれを言い切る前に不動の体ががくんと膝から崩れ落ちる。 それを鬼道が抱きとめた。 顔をのぞき込もうとすると、いきなり不動が鬼道の肩にかみつく。 鬼道が顔をしかめると、不動は「さっきのお返しだ」と不機嫌そうに言った。 一通り終わったあと、なんでいきなりこんな一方的にされなきゃならなかったのだ、と抗議を込めて、不動はうなだれた鬼道の横顔を見た。 さっきまでの何を考えているか違う表情とは違い、鬼道はだいぶ落ち着いた顔をしている。 その鬼道は不動の意を正しく汲み取って、真剣な顔で告白した。 「どういったらいいのか……あの、男に妬いてたんだ、俺は、すまない……」 支離滅裂な言葉を並べて、鬼道は一応の謝罪をした。 不動は驚いたようにぱちくりと大きく瞬きをした。 今度は不動のほうが先に口を開いた。 「……誤解してるみてえだから言っとくけどなー、あいつとそおゆう関係だったのは、昔のことだし!今日、あいつが見てたのはお前だからな!?」 「は?」 鬼道が不動の言葉をよくのみこめずに怪訝な声を出すと、不動がばっと身を起こした。 「あいつ、人のモンが大好きなんだよ」 「何?」 「しかも鬼道くんみたいなタイプが好きでやべえと思ったからかばってやったのに」 「えっと、」 「心配して損したぜ」 不動は鬼道にまったく口を挟ませなかった。一息に言い切ってから、もう一度不動ははーっとため息をついて鬼道の肩に頭を預けた。 それじゃ、何だ、不動は鬼道を取られたくなくてあんなことを言っていたのか。 意味を理解すると、じわじわと鬼道の頬はゆるんだ。 それを見た不動は鬼道をどやしつけた。 「てめえーっなにニヤニヤしてんだ!」 「この、お前に好き勝手されたオレはどうなんだよ」 「本当に悪かった」 「あー?ホントかよ」 「でも最中のお前は、最高に、かわいかったぞ」 「ばーーーーーーーか」 頬をピンクにそめて恥ずかしげもなく答えた鬼道に、不動は顔色も変えずでこぴんを食らわす。 「痛い…!」 手加減なしでやられて、鬼道は額を抑えて縮こまる。 不動はあきれたような顔で、鬼道を押しのけ立ち上がった。 「クソッ、服もびちゃびちゃだし」 着たままだったシャツを脱ぐ。 悪態をつきながら、不動はそれを絞った。 鬼道が慌てて言った。 「すぐ他の服を用意する」 「いい、鬼道ちゃんの服なんか着て帰ったら寮の奴らに笑われる」 背中を向けたまま不動は言う。 シャワーで適当に体を洗い流してから、置いてあったタオルを腰に巻いて、すたすたとバスルームを出て行く。 やはりまだ怒っているのかとしゅんとしたが、鬼道も絨毯を濡らすのもかまわず不動を追った。 なんとか引き留めようと鬼道は言葉を探す。 「だったら……」 「だから、今日は泊まってく。いいだろ?」 照れているのか、少し早口で不動はそう言った。立ち止まった鬼道が、ぱっと顔を輝かせる。 「もちろんだ!」 その言葉を聞いた不動は振り向くと、うれしそうににっと笑った。 鬼道がそばに寄ると、不動は軽く鬼道の唇にキスをした。 結局のところ、二人は他人が入り込む隙間のないほど両思いなのだ。 End. 一万ヒットフリリク カリアさんから「鬼道さんが不動と昔関係があった男に偶然出会い、嫉妬にまかせて不動を犯しちゃうけど最後はラブラブな話」でした! そのまんますぎでした笑! |