「なまえちゃーん、歯磨き粉買ってなかったっけー?」 「えー?洗面所の棚に入ってないー?」 「なーい…あ、嘘。あったー」 「もう、いっつも探す前から無いって言うのやめてよね。私は探し物発見器じゃないんだから…」
熱々の卵焼きとネギのお味噌汁の匂い。 炊飯器から立ち込める白い湯気。 バタバタと響く階段の音。 飛び交う中身の無い会話。
朝のいつもの我が家の風景。 そんな中の、彼のいつもと違う表情に、私は気づくべきだった。
「体操着持った?」 「持った持った」 「おし、じゃあ行くか」 「ういー。行ってきまーす」 「行ってきます」
いつものように誰もいない家に行ってきますと残して、私達は家を出た。
そして、この家に私達がまた2人で帰ってくることは無かったのだ。
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