「ごめんね…その、別に監視してたわけじゃないんだよ。ただちょっと心配で…その…」

窓辺から差し込む夕日に赤く染められた教室。
放課後、由香里ちゃんと私はここに2人で残っていた。楽しげな会話をするわけでもなく、ただ揃って窓辺に頬杖をついていた。
たまにポーンと高く上がるサッカーボールが向かいの校舎越しに見える。サンジ君が蹴ったものかなあ…


「いいんですよ。おかげで私達も変な緊張がほぐれましたし」

由香里ちゃんは優しげに笑うけど、その顔は少し寂しそうだった。
理由を聞くのは野暮ってもんだけど、彼女は自分から理由を話してくれた。
明るく、そして悲しげに眉を下げて笑って、「フラれちゃいました」とそう言った。
彼女のその姿は、胸が痛くなるくらいに切なく、立派なものだった。


「本当、申し訳ない…」
「本当にいいんですって。先輩もデート楽しんだみたいですしね」
「え?ああ、あれはデートじゃないよ。ただ単に一緒にいたのがサンジ君だったっていうだけで…」

ポーン──…またボールが上がった。今度は高いなあ。
ボールが地面に落ち、ふと隣の由香里ちゃんの顔を見る。彼女の顔はこの一言に尽きた。
きょとん。



「…なまえ先輩って、サンジ先輩と付き合ってたんじゃないんですか?」
「……へ?」

ワアァァッ──…
誰かがゴールを決めたのだろう、歓声が上がった。


「ち、違うよ!サンジ君はただの居そ…」
「いそ?」
「えーと、そう、友達。ゾロだって、友達。うん、そうそう」
「先輩、どもってますけど…」

そう、周りから見たら、私達は友達。
でも、本当は、家族。本当は違うんだけど、本当は、家族。
私達の関係って、本当にわけがわかんない。



「じゃあ、付き合ってはなくても、先輩はサンジ先輩のこと好きですよね?」
「へ!?わ、私が!?」
「はい。見てればわかりますよ。同じ恋する身としては」

由香里ちゃんのその真っ直ぐな瞳に、私は思わず口をつぐんでしまった。
た、確かに私はサンジ君のことが、す、好きだけど、それは家族としての好意であって、でも好きなことは変わらないけど、でも…って、この悩みは一体何回目よ!


「先輩まさか高校生にもなって好きって感情が分からないなんて言わないですよね?」
「うっ…」
「今時中学生はほとんどキスを経験して高校生になるんですよ」
「そうなの!?ってことは、私は中学生以下…」
「いえ、もしかしたら小学生以下かも…」
「そんなあ!」


私の声に応えるように、サッカーボールは高く上がった。

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