───「私といるときくらい気ィ抜いてさ。素のサンジ君でいていいんだよ?」


売店のメニューボードを見上げながらぼうっと先程の彼女の言葉を考える。
ほんと、痛いとこついてくるよなァ…


「ご注文お決まりでしょうか?」
「ミルクティーとアイスコーヒーで」
「かしこまりました」

無理、してんのかな俺…
でも、レディに優しく振舞うのは素の俺だしな。それがなまえちゃんには「無理してる」って映ってたのか?


「お先にお会計失礼します。ミルクティーとアイスコーヒーで、合わせて600円になります。…はい、ちょうどですね。ありがとうございます」

いや、でも俺も彼女に対してとっていた態度が妙だとは自覚していた。
普段家にいるときはもちろん女の子として意識してはいるが、それでもあんな普通に過ごせるのはなまえちゃんの誰でも訳隔てなく接する人のよさに頼りきっている俺がいるからだ。


「(情けねェぜ全く…俺が彼女に守られてんじゃねェか)」

だからこそ、彼女には他の子より特別な感情を抱いている。それは当然のことだと思う。
突然家の前のダンボールに入ってた男子高校生を住まわせてくれる女子高校生なんていねーぜ?普通…

だからこそ、せめてもの恩返しに。
こんなことじゃ返せねェくらいの恩が、なまえちゃんにはある。

だからこそ、なまえちゃんは俺の大切な人なんだ。



「おまたせいたしました。ミルクティーとアイスコーヒーです」

他の女の子とは違う、特別な子。
返しきれない恩がある、大切な子。

俺はやっと、自分たちの関係がどういうものか理解できたような気がした。

複雑だけど、俺たちは、



「家族」


ポツリと呟いたそのとき、今まで頭にもやもやとかかっていた霧が晴れたような気がした。

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