「はぁーっ……」
売店に向かったサンジ君の姿が見えなくなったところで、私は机に突っ伏した。 思わず長いため息が漏れる。 今日の私は多分どうかしてる…
サンジ君がいなくなっただけで急に心細くなったり、現れたら子供みたいに甘えっきりだし、それなのにそんなサンジ君を否定するような事言っちゃったり…
「私は小学生かっての…」
腕を組んでそこに顔をうずめた私は、少し小声で腕の中にそう吐き出した。
今だに心臓は早足で左胸を何度も何度も打ち付けている。 そんな心臓がやっと収まったところで私は目の前の椅子がガタリと動く音を聞いた。そして、その周りに立ち込める煙草の匂い。 サンジ君が帰ってきたのかと顔を上げるが、そこに座っていたのは見たこともない男の人だった。
「……………どなたですか?」 「君、1人?」
……………。
えっ、どうしよう質問を質問で返された。 ダメだこの人バカだ。きっと話が伝わらないタイプのバカだ。
「1人じゃないですけど…」 「あのさーこれからどっか行かない?暇でしょ?」
……………。
あ、やっぱそうだこの人バカだ。ダメだ手遅れた。 このままじゃ埒があかないし、少し自惚れても…いいのかな。
「お兄さん、私をナンパしてます?」 「そうだよー。ね、だから誘われてみない?」 「だからさっきも言いましたけど、私もう1人一緒に来てる人がいるんです。悪いですけど、ナンパなら他をあたってください」 「えーいいじゃん。どうせ友達でしょ?俺、君と行きたいんだよなー」
だから私の話を聞けって!!!!
なんだかもう敬語を使ってる自分がバカバカしく思えてきた。 つーか、「どうせ」友達ってどういうことなの。友達だったらナンパされてもいいって?
「はぁー、ったくこれだからバカは…」 「え?」 「ごめんなさい。私女の子なら誰でも口説くような軽い人、タイプじゃないんです」 「人聞きの悪いこと言わないでくれよ。俺は可愛い子しか声かけないし、実は誠実って友達からも言われてるんだよ?」
そうか。なら彼よりタチが悪いな。 それに、そのいかにも取り繕ってます、っていう優男風の喋り方もまた腹が立つ。
「大体、女の子を誘うときにその態度は無いでしょ。特にソレ」 「ソレって…ああ、煙草?」
一度言い出すと止まらないのは私の悪い癖だとは自覚しているけど、今回ここまで言葉が出てきたのは、ナンパ男の後ろに彼が見えたことによる安心感のせいだと思う。
「何、嫌いなの?でも君からも煙草の匂いするよね?」 「ううん。そんなんじゃないよ。ただ…」
人差し指を彼に突き刺す。
「あなたからする、その匂いが嫌なだけ」
「………はァ?」
ゆっくりと近づく、後ろの人影。 いつもはへらへらと緩んだ口元が下がった無表情なところを見ると、よほど機嫌が悪いようだ。
ドスッ
「てめェ、誰をナンパしてると思ってんだコラ…」
両手にドリンクのコップを持ったサンジ君の蹴りが見事に命中した。
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