てくてくとオレンジに染まった道路を歩く。夕日は細長い3つの影を作っていた。
「ったく、用件まとめすぎぜなまえちゃん…ビビったじゃねェか…」 「言いたいことは伝わったんだからいいじゃん。用はデートしてくれってことでしょ」 「お前の言葉には1番大事な所が抜けてんだよ。誰が言ってたのかキチンと言え」 「だから1番大事な所はデートしてくれって所じゃん」
どうやらあの私の発言は色々と誤解を招いてしまったらしい。あの後ちゃんと詳しく事情を話し、納得させてその場は一旦終わった。そして今に至る。
「大体、俺が知らねェ女とデートするだァ?ふざけんな」 「1年B組の由香里ちゃん。はいこれで知ってる人でしょ。だからデートしてあげてよ。」 「お前は一休さんか。いやだ。やんねェ」 「てめェがレディに興味ねェのは十分知ってるが、ここは由香里ちゃんの気持ちを考えろよクソマリモ」
うーん、デートの申し込みはしたけどOKを貰えるかどうかが問題だ。 そんな頭をフル回転している私に、サンジ君が耳打ちをする。
「由香里ちゃん、あのこと知ってるのかい?」 「ん?ああ、知ってた。それでも話してみたいって」
あのこと…それはこの問題をさらに上回る結構重要な事だ。
「彼女がいるのにアタックねえ…健気じゃねェか。マリモにゃもったいねえな」
そう、それはゾロの彼女のこと。 この前剣道女子の全国大会で1位をとった、ゾロより年上の美人さん。たしぎ先生にそっくりだったってサンジ君が言ってた。
由香里ちゃんはそのことも承知の上で、ゾロに告白をしたいらしい。
問題も山積みなところで、さてどうするか。 由香里ちゃんには「任せて。」って言っちゃったし、でも硬派なゾロだから絶対にデートはしないだろうし… よし、ここは私の腕の見せ所だ。
「ゾロ。これはデートじゃない。たんなるお出かけなんだよ」 「はァ?お出かけ?」 「何も女の子と出かけるのが全部デートっていうわけじゃない。…それなら私はほぼ毎日デートしてることになるしね」 「俺は毎日がデートだと思ってるよ!」 「はいはい。で、そんな単なるお出かけをゾロは物凄く嫌がっています」 「そりゃ嫌がるだろ」
「そこだよ!!」
ビシッ!と拳銃のようにゾロに指を突き立てる。 気分は断崖絶壁で犯人を指さす名探偵だ。
「ゾロは何にでもすぐ拒否反応が出る。そこが敵の思うつぼなのだよ!!」 「いや、敵って誰だよ…」 「世の中にはやってみなきゃ分かんないことだってたくさんある。その行動を起こすのは君しかいない!」 「で、でも知らねェ女と出かけるなんて普通…」
「はいそこ!!」
ビクッとゾロの肩が上がった。 今度の気分は保育園児を叱る先生だ。
「剣道部主将、次は全国大会1位を狙うロロノアさんが、たかが女の子とお出かけするくらいでビクビクしてていいのか!」 「!!」 「『女の子は苦手だから』そんな甘っちょろい考えが通用するとでも思ってるの?」
ドスドスとゾロに刺さった言葉の槍。それはナイフのような切れ味で刺さり、しかも内側からのダメージも与える。 そして、最後の一刺し──
「その点じゃ、サンジ君の方が一歩リードかもね」
この言葉がトドメを刺した。
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