あの騒々しい勉強会から一夜があけた。

結局私が家に戻ったのは明け方頃だった。案の定、3人はリビングで仲良く爆睡。眠気に負けた私もそのまま撃沈。当然課題は真っ白のまま提出するハメになってしまった。
そんな私達に課せられた罸は、『化学室の実験道具丸洗い』だった。


「ったく、何で世界史から一転して化学なんだよ」
「でも世界史の資料整理とかも嫌だよ私」
「ロビン先生いないんならやる気でねェ」
「というかよー。俺達はともかく───何でお前達までいるんだ?」

ルフィの何気ない質問に、思わず顔をあげる。化学室には私達の他に2人の男子生徒が立っていた…(というかさっき窓から入ってきたのだが…)
全身問題児、隣のクラスのキッドとローだ。


「お前達も何かやったのか?」
「いや特に何も。ドアに仕掛けた黒板消しが偶然スパンダに当たっただけだ」
「お前何やってんだよ…」
「したらユースタス屋も引っ掛かってよ」
「だっせー!キッドだっせー!」
「うっせーなまえ!笑うんじゃねェ!!」
「で、キレたコイツが投げた黒板消しが当たったのがスパンダだったってわけだ」
「スパンダ可哀想に…」

スパンダ…ムに若干同情しながらローの話を聞く。隣でサンジ君の呆れたようなため息が聞こえた。その隣ではルフィが笑い転げてるし、ゾロは興味無さそうに壁にもたれていた。

このメンバーで行う作業はたとえどんなにつまらないものでも大騒ぎになるんだろうな…そう思っていたが、その私の予想は大きく外れた。
意外とみんな真面目に洗い物に専念している。何だ、コイツら根はいい子なんじゃないかと思うほどだ。まあ、罰則なんて早く終わらせて帰りたいのが本音だろうけど。


「………静かだね」
「ピアノ弾きのくせになまえの耳は節穴だな。さっきから麦わら屋のフラスコ割る音が聞こえねェのか?」
「黙れ隈男。っていうか誰だよルフィに割れ物扱わせた奴」
「大丈夫だぞ、なまえ!ゾロもやってるからな!」
「それ大丈夫違ううううう!!!もうやめてお前ら割れ物触んな!」

ぶん殴ってやろうと拳を固める。が、私が一発入れる前にガツンと足の制裁が入った。言うまでもなくサンジ君だ。そしてこっちも言うまでもなく、ゾロが反撃の体制に入る。
ああ、また始まった…


はあ、とため息をつき、もう1度水を出そうと蛇口をひねる。
しかし、蛇口の真下に位置していた私の手には、当たるはずの水の感触が無かった。
でも、確かにジャバアアァという水音は聞こえる。……おかしいな、水音が左隣で聞こえる…


「てめェ………」

……おかしいな、もの凄く低い怒りの声まで左隣から聞こえる。
チラリ、と目だけ動かして左を見ると、案の定びっしょびしょのキッドが殺気を含んだ目でこちらを睨んでいた。不良ってホントに怖い。


「ごめんねキッド何か知らないけど蛇口が横向いてて気づかないで水出しちゃったホントごめん許して!!」
「そんなノンブレスの謝罪受け取るか!!棒読みって顔に出てんぞ!」

バッシャアアァァア───!!その時、ぎゃあぎゃあ言い合う私達に降り注いだのは冷たい真水だった。そして、その後に続く2人の声。


「あ、悪ィなまえ!キッド狙ったつもりだったんたけどよ、ミスっちまった」
「てめェ、レディの謝罪はたとえノンブレスだろうが棒読みだろうがちゃんと受け取るのが男だろ」

キッドの隣ではサンジ君が、私の隣ではルフィがそれぞれ蛇口をキュッと真横に向けていた。

「てめェら───…!!」

キッドの声は最後まで聞こえなかった。また、バシャアアと水音がしたからだ。しかも今度は真上から。
とっさにサッと身をよじって回避する。が、今度の攻撃は最初っからキッドのみを狙っていたらしく、見事にクリーンヒット。最後にはバケツがカーンッとキッドの頭に当たって床に落ちた。彼が怒りで震えていたことは言うまでもない。


「あ、悪ィユースタス屋。蚊を退治しようと思ったんだが、ミスっちまった」
「ねェよ、こんな壮大な蚊の退治方法!!」
「俺はいつでも壮大な男だ」
「黙れこのクソファルガァアァァア!!」


前言撤回。やっぱりこのメンバーで静かな作業をするのは、SSS級の難易度みたい。

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