目が覚めたらそこは小綺麗な部屋だった。
インテリアから見てここはヤローの部屋じゃねェな。 寝ていたソファから体を起こすと、ぱさりと床に落ちる毛布。どうやら寝ている間かけられていたものらしい。
(柑橘系の香り…)
ふわふわの毛布からほのかに漂う香り。 うん、間違いなくヤローじゃねェ、レディの部屋だ。
改めて周りを見渡すと、意外に家具…というか物が少ない。 それと、ここは自室じゃなくてリビングだな。 そんな殺風景な部屋に流れる、小さく微かなピアノの音…
(ピアノの音?)
何だか可愛らしい曲が聞こえてくる。 リビングの外からだな。…行ってみるか。
この家のレディに会えるかもしれないし!
※ ※ ※
音をたよりに歩いていってみると、ある一室の前で足が止まった。
「(こっからか…)」
この音はCDじゃなくて生演奏だよな。 弾いてるのはさぞ麗しいレディなんだろうな…勝手に髪の長いおしとやかなお嬢様がイメージとして出てくる。
コンコン───、軽いノックをし、声をかける。 しかし、返事はない…演奏に夢中で気づいてないのか、それともただ単に無視しているのか。
後者ではないことを祈り、俺は少々罪悪感を持ちながらドアノブを回した。
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