「きりーつ、礼。」

ガタガタと椅子と机の揺れる音が教室に響く。
やっと下校の時間。そして、私が学校生活で1番楽しみにしている時間の始まりだ。


「んじゃナミ、いってきまーす。」
「今日も行くのね。窓開けてやりなさいよ、絶対!」
「はいはーい。任せといて。」

ナミに手を振り、教室を出ようと振り返る。すると視界が遮られ、そのまま誰かにぶつかってしまった。素直に謝ろうと顔を上げる。
「あ、ごめんなさ…」ここまで言い、私の声は止まった。


「あれ、何で止まっちゃったのかな。」
「サンジ君ゴメンネ。」
「この上ない棒読みだな…」
「とかいいつつ伸ばしてくるこの手は何。」

いつの間にか腰に回されていた手から逃げようと身をよじる。「スキンシップ。」と言いながらまた伸びてくる手を、今度はカバンで叩き落とした。空っぽのカバンだから痛くはないだろう。


「だからただのスキンシップだって。」
「世間ではそれをセクハラと言います。」
「ちぇ…まぁいいか。なまえちゃん怪我無い?」
「は?怪我の心配をするのはサンジ君の方でしょ。」
「そうじゃなくて、ぶつかった時。痛かったろ?ごめんな。」
「別に、大丈夫だけど…」

そう答えると、「よかった。」と、笑いながら私の頭の上に手を置くサンジ君。思わず彼から目をそらしてしまった。


「無駄紳士。」
「え?」
「無駄に紳士なんだよコノヤロー。あ、紳士ってそういう意味じゃないからね。優しいとか、そういうんじゃ…」

ダメだ、また墓穴ほってる…
途中から自分でも何を言っているのか分からなくなり、しまいにはだんだんと声が小さくなっていってしまった。最後の部分なんて言えてないし。
語尾が小さくなるにつれ、目線も下がっていく。そんな私が再び目線を上げたのは、サンジ君の「顔上げて。」の声だった。


「なまえちゃんクソかわいいって言ったら?」
「サンジ君周りの女の子ほとんどにそれ言ってるでしょ。」
「ゔ。」
「無駄紳士。」
「ぐ。」
「というわけで、私行くねっ!」

よっ、と硬直しているサンジ君の脇を通り抜ける。


「あ、そうだ。サンジ君。」
「はい!」

「気が向いたら、音楽室の窓見てやって!」

そう言い残し、私は廊下を駆け抜けた。
何だか頬が熱い。ぺし、と両手で挟むように叩く。




((あれは、反則。))

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