「お疲れ様」
「悪い、遅くなった」
風と一緒に葉巻のにおい。これだけで彼を感じることが出来る。
「職長ってのも大変だね」
「まあな、でもやっぱ楽しいからよ」
「船を造ることが?」
「それはもちろんガレーラの雰囲気も嫌いじゃねえ」
「そっか」
普段はルッチと喧嘩ばっかりして気に食わないとか言ってるのに何だかんだ言って楽しんでいる彼が可愛く見えて少しにやけた。
「何にやけてんだよ」
「何でもないよ」
「意味分かんねえ」
「パウリーには分からなくていいよ」
分からなくていいんだよ。分からないままのほうがいいことって世の中にはたくさんあるんだからね。
「帰ろ?」
「・・・ああ」
ごつごつしたパウリーの指と自分の非力そうな指を軽く絡ませた。ごつごつしたパウリーの手はあんまり心地好くないんだけどね心が気持ちいいって感じるからね嫌いじゃないよ。
「パウリー」
「何だよ」
「帰ったらご飯食べてさっさと寝よ」
「珍しいな、お前がはやく寝るなんて」
「んー何か今日は疲れちゃった」
「お前でも疲れることがあるんだな」
そんな失礼な発言に言い返して言い返されて終いには大声で笑ったりなんかしちゃって。もう遅い時間なのに私達迷惑だね。結局笑いながら彼の家に帰って適当にご飯を食べてシャワーを浴びて2人でベッドに潜り込む。パウリーの葉巻のにおいがシーツにまでしっかりと染み付いてて、 だけど何だか安心してる私が居てる。
「ねえ、キスして」
「明日してやるよ」
「そう言ってしてくれたことないよ?」
「明日は、絶対してやるよ」
「今日じゃだめ?今してくれたらもうねだったりしないから」
「〇〇、」
「だめ?」
困った顔のパウリー。わがまま言ってるのはわかってるけど今日じゃだめかな?今じゃだめかな?
「お前やっぱ疲れてんだよ、もう寝ろ」
顔を胸に押し付けられてぎゅってされた。やっぱりしてくれなかったね。1回もしてくれなかったね。少ししてから名前を呼んでみたら返事がなかったからもう寝ちゃったんだろうな。腕から抜け出して顔を覗き込めばやっぱり。
「キスしてくれなきゃ、私がしちゃうよ?」
薄く開いた唇に、自分の唇を近づけてはみたけれど。
そのまま押し付けてしまうのは簡単だったけれど。やっぱり、やっぱりね、私も女だからさ。初めてはパウリーからがいいな、なんて。私、馬鹿かな、パウリー。
「パウリー、明日はちゃんと、してね?」
貴方を好きになって良かったとは言えないよ。だって、こんなに胸が痛くて痛くて、死んじゃいたくなるからね。
でもね、それでもね、貴方を好きにならないよりは全然良かった。
あれ、じゃあやっぱり好きになって良かったってことになっちゃうのかな。うん、なっちゃうね。まあ、それでいっか。
うん、貴方を好きになって良かった。
せめて、今夜はキスが出来るくらいの距離で眠らせて。
10/10/11.