少し冷たい風が容赦なく私の体温を奪っていく。寒いなら中に入れってドクQに言われたけど寒いからこそ中に入るわけにはいかないんだ。寒さに耐えながら貴方を待っていればきっと優しくしてもらえるなんてそんな、ね。



「何をしているのですか?」



ステッキが軽く甲板を叩く音がした。ああやっと来てくれた。



「真っ暗な海が好きなの」
「寒くはないのですか?」
「寒いよ」
「貴女という人は・・・」



覆いかぶさるように押さえ込まれるように。彼なりの精一杯の優しさで抱きしめられた。



「冷たいですな」
「何で私がここに居たか聞きたい?」
「ホホ、暗い海が好きというのは嘘ですか」
「うん、嘘」



彼に嘘をついて許してもらえるのはきっと私だけ。嘘をついたのが私じゃない誰かならきっとその人は今頃不気味な笑顔の彼に殴り殺されてる。想像すると何だか笑えた。



「ラフィットを待ってたの」
「ホホホ、可愛らしいことを言いますね」
「部屋から出てきてこうやって抱きしめてくれるの待ってた」



そう言って笑った瞬間抱きしめる力が少し痛くなった。



「怒った?」
「いえ怒ってはいませんが、ただ」
「ただ?」
「嬉しいのですよ」
「・・・そっか」



同じ色の唇を重ねたそこだけがやけに熱くてさっきまで冷たかった風が急に心地好くなった。



「もし私がラフィットに船長と私どっちが大事って聞いたら、ラフィットはもちろん私を選ぶでしょ?」
「ずいぶん自信がありますな」
「だってラフィットだから」
「貴女にそう思っていただくのも悪くはない」



体を冷やせば貴方の低い体温でもあたたかく感じられるんだと知った。










10/11/01(20170118).

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