「7年だ」


海水みたいに冷たい声だなって、いつも思う。いつもって言っても、長官から任務を言い渡されたことはまだ3回しかないけれど。


「7年ですか…」
「嫌なのか?」
「いえ…」
「明日から頼むぞ」
「…はい」


廊下に出て、そのままドアに寄りかかった。何だか一気に力が抜けて、手がついた床はきっと海水よりも、長官の声よりも、冷たい。


「あっちは5年、こっちは7年」


どうせなら、同じ任務が良かったなんて甘いことを考えてる私は本当にまだまだ。まだまだまだまだ。


「具合でも悪いんか?」
「………」
「ほら」


床についてすっかり冷たくなった手が強く引かれた。カクだ。カクだカクだ、カクだ。


「明日からね、」


言えなかった。どうして、何で、言えない。


「私、明日から…」
「任務か?」
「…うん」
「わしも明後日から5年じゃ」
「7年」
「ん?」
「私は、7年」


そうか、って。カクにしては小さい、弱々しい声。


「明日は、準備があるから見送りは出来ん…」
「うん」
「頑張るんじゃぞ」
「うん」
「準備が、あるんじゃろ?」
「…うん、じゃあ、またね」


ここで振り返ったら私はたぶん泣いちゃうから、たぶん行きたくないと言ってしまうから。唇を強く強く、強く噛んで大股で歩いた。


「7年後、待っとるからの!」


カツカツ、カツン。廊下が静かになった。嘘、私が鼻をすする音が響いてる。


「…う、んっ」


どうか7年後も、その笑顔で出迎えて。


(あの日私を待つと言った貴方を、今は私が待っている)



2011/09/30.

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