「ごめんね」
かれこれ2時間近く、人間ってやつはこんなに長い間泣けるもんなのかと思う。いい加減嗚咽が漏れる喉も痛むだろうし、まだ涙が止まらない目も痛むだろう。なのに、やっぱりこの子は泣くのをやめない。
「あぁ…」
何を言ったらいいのか、分からなくて曖昧な声をいっぱいの空気と一緒に吐き出した。
「ごめんね」
何も謝ることはねえんだよ。謝るくらいなら、しっかり呼吸してくれ。しゃくりあげる声があんまりにも苦しそうで心配になる。
「ごめん、」
「しー、何にも言いなさんな」
「ん」
俺の服に、涙が深い色を落とす。小さい円から大きく大きく滲んでく。小さい小さいこの子の目から。
「わけは聞かねえから、気がすむまでこうしてろ」
「あり、」
「おぉ」
「がと」
「…ああ」
この子が教えてくれるなら、何日間だってわけを聞こう。慰めてくれと頼むなら、ずっとずっと慰めよう。ただ、俺にはそのどっちも出来ねえから、俺の分の涙もやるから。その心が治るまで俺の胸にすがってほしい。
「ありがと」
この子を泣かせるものが何かは分からねえが、それが世界だったとしても、海軍だったとしても、海賊だったとしても。俺はそのどれもそこまで憎いと思ったことはなかったが、今だけはその何かがどうしようもなく憎い。
(君の涙と僕の涙が混ざったら何色になるだろう)
2011/09/02.