「私にはなんにも言わないで行くつもりだったの?」
昔に比べて筋肉質になった背中に投げかけた。
「ああ、まあな」
「そうゆうとこ、変わんないなあ」
ほんと、見た目ばっかり大きくなって、不器用なとこは何1つ変わらない。
それは、私も同じなのかな。
「お前も飲むか?」
「うん」
昔は飲めなかったお酒も、今ではこうして2人で飲める。
強いこいつに負けたくなくて、いつも飲み比べばっかりしてた。
いつも決まって私が先につぶれちゃうんだけどね。
「ゾロが居なくなったら誰と飲み比べしよっかなー」
「1人酒もいいもんだぞ」
こいつは、別に私が居なくても寂しくないんだろうなって何となくわかった。
それに比べて、私は。どうしようもなく、苦しくなった。
「せめて1回はゾロに勝ちたかったなー!」
「あんだけ飲めりゃ充分だ」
「勝つことに意味があるんでしょ?」
「それもそうだ」
また瓶が地面に1つ転がった。
やっぱり私は今日も負けちゃいそうだ。
「ね、ゾロ」
「ん?」
「私ね、」
「ああ」
「ゾロのことね」
「何だよ」
あ、だめだ。
ひどい頭痛で目が覚めた。
そのまま地面に寝てしまったからあちこちがすごく痛い。
「あー、あぁ」
ゾロは、もう居ない、か。
酒瓶はそのままあちらこちらに転がっている。
ゾロが座っていたところにはもう何も残っていない。確かに、昨日はここに居たのに。
「もったいないなあ」
1つだけ、まだ半分以上残ってる瓶があった。
瓶の下に紙切れが見えた。
「何だよ、これ」
昔、私が無理矢理あいつと一緒に撮った写真だ。しかも真ん中から半分に切れてて、残ってるのは嫌そうな顔のゾロの方だ。
てことは、もう半分の私の写真は、たぶん、あいつが持って行ったの、かな。
「何だよ、あいつ」
1度だけ好きだと伝えてしまったことをずっと後悔していたのに、友達の一線を越えてはいけないと思っていたのに。
あいつは、私を愛してくれていたんだ。
(どうかあなただけは不器用で愚直なままでいて)
2012/12/16.