彼を、みんなは神とは呼びたがらないだろう。自らの欲望のままにしか動かない彼を。
けれど、彼をみんなは神と呼ぶのだ。そう、呼ぶしかないからであろう。
「たった1人の願いも叶えられず、何が神か」
本に書いてあったそんなちんけな文を、声に出して読み上げてみる。
ならば私はこの本の作者に問いたい、すべての人々の願いを叶えれば世界は平和になるのか、と。
そんなわけないじゃない。人間ってのは知っての通り、身勝手で他のどんな生物よりも欲深い生き物なのだから。
その願いが叶えば次、また次と望むに決まっている。いつしかその欲望はまた争いを生み、結局平和な世界など作られはしないのだ。
つまり、全人類の願いを叶えられる者が神だというのは、私的には納得がいかないのだ。
ならば、自らの欲望のままに動き、その欲望のままに世界を支配してしまう彼のほうがよっぽど神らしいのではないだろうか。
「とんだ傲慢だな」
「貴方に言われたくないわよ、神様」
「それは皮肉か?」
「愛情よ」
もし、彼が本当の神であったなら、全人類を平等に愛すのだろう。
けれど、生憎彼は本当の神ではないわけで、そんな神は生憎私を愛してくれているのだから、まったくいい笑い話もあったもんだ。
(全人類が不幸になろうとも、私と貴方が笑っていられたら、そんな世界はどうかしら?)
2012/12/31.