好きなやついるのか?
誰もいない甲板でなんの前触れもなく投げつけられた質問。ルフィが?そんなことに?興味あるの?どうして?いきなり?何で?ルフィらしくないルフィに動揺しつつも、平静を保ってその答えを返した。
「いるよー」
「どんなやつ?」
「んー」
ルフィもこういう話に興味あったんだーなんて頭の隅っこで考えながら質問に返す言葉を考えた。考えてみたらちょっとだけほんとちょっとだけ悲しくなった。
「強いよ」
「俺よりもか?」
「うん…誰よりも強い」
「すっげーな!」
うん、すごいよ。あの人はほんとにすごい。誰よりも強くて、誰からでも愛されて、誰よりも優しくて、誰よりもルフィ、あんたが憧れてる人だよ。
「お前泣いてんのか?」
「え?」
ルフィの指の腹がほっぺをなぞった。思わず目を閉じたら涙が下に落っこちた。もう平気だと思ってたんだけどな。
「俺はお前の泣いてるとこなんて見たくねーぞ」
「ん…ありがと」
「笑ってるほうが好きだ」
「ありがと」
珍しいくらい真剣な顔しちゃってさ。何だか申し訳なくなっちゃうじゃんか。
「私もルフィのこと好きだよ」
好きなんだよ。でも、でもね。やっぱりあの人のことはきっとたぶん超えられない。だって、あの人ずるいんだもん。ずるすぎるんだもん。
「でもお前好きなやついるんだろ?」
「うん、だいすきだよその人のこと」
「だったら」
「でもね」
おはようとかばいばいって言うみたいに普通に。しんじゃったんだよねその人。私の声だけがやけに響いた気がした。
「だからね、ルフィのこと好きになってもいいんだよ」
(きっと彼も許してくれる。)
20150506.