まだボク等が流魂街に居った頃、ボクはずっと〇〇の背中を追いかけとった。その小さいけれど大きな背中を、ずっと支えたいと思っとった。



「これ食べる?」
「これ何?」
「干し柿、お腹減ってんでしょ?」



初めて〇〇に会うた時から、ボクはずっと憧れとったんやと思う。少し乱暴な喋り方も、自分かてお腹が空いてるやろに自分は食べんとボクに譲ってくれる優しさも、そこら辺の大人にも負けない強さも、そのせいで傷だらけの体も。全部に憧れとったんやろな、あの頃のボクは。



「大丈夫?」
「どないしたん?」



前を歩く〇〇がいきなりしゃがみ込んでその後から覗いてみると、やせ細った女の子が倒れとった。それがボク等と乱菊の出会いやった。



「これ食べ?」
「お腹減ってんでしょ?私達も同じだよ」



ボク等はそれからいつも一緒に居るようになった。乱菊は少し横柄なところがあったけど、でもええ子やった。〇〇が乱菊を大事に思うなら、ボクも同じように思った。



「乱菊お腹減ってない?」
「〇〇がいつもたくさんくれるから大丈夫よ」
「そっかそっか!なら良かった!」



〇〇は時々居なくなって、帰ってくる時は必ずたくさんの食べ物を持ってきた。そして乱菊やボクだけやなく、お腹を空かせてる皆に分け与えた。それをどこで手に入れとるのかは誰も知らんかったし、あえて聞きもせえへんかった。ボク等はみんな〇〇が大好きやったから。〇〇は皆から愛されとった。ボクももちろんそうやった。



「ギン、私死神になる」
「そらまたえらい急な話やね」
「死神になればもっと強くなれるし、ここの皆にもっと良いものを食べさせられる」
「それだけの為に、死神になるんと違うんやろ?」
「ギンに隠し事は出来ないね」
「せやろ?堪忍して正直に話して?」
「死神になって、近くで支えてあげたい人が居るんだ」



ボク等が、ボクが今まで1度も見たことない表情やった。そっかそっか、〇〇は好きな人が出来てしもたんやね。今まで居らへんかったことの方が不思議や。〇〇はえらい美人さんやさかい、男がほっとかんやろね。でも、どっかで〇〇はボクだけのもんやって思って自惚れとった。今更気づいても遅いねんけどな。



「そうか、応援するわ」



ボクが絞り出したのはそんな強がりの塊やった。それしか、言えへんかった。〇〇が支えたい人は、ボク等だけからやなくてボクからも〇〇を奪ってしまうんやね。ボクが追いかけとった背中は、遠くに行ってしまうんやね。



「〇〇が死んだら、ボク泣いてまうよ」
「死なないよ馬鹿」
「そらそやね、〇〇は殺しても死ななそうやもん」
「ギンも、勝手に居なくなったら許さないから」
「〇〇が悲しむことはせえへんよ」



そらずるいわ。ボクから勝手に離れてくのは自分のくせに、そんなんずるいわ。



「寂しゅうなるわ」
「ギンも死神になればいいよ」
「ボクなんかがなれるやろか?」
「きっとなれる、そしたら守りたいものを守れる」
「そんな、もんやろか」



ボクの守りたいものって何やろ。考えるまでもなくそれはきっと〇〇の笑顔や。その笑顔と、〇〇が大切に思うものを守れればそれでええ。でも〇〇の守りたいものは、きっとボクとは違かったんやろね。ボクは〇〇を見とっても、〇〇にはボク以外の人が見えとったんやろね。それから3日後、〇〇はボク等の前から居なくなった。

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