(エレンside)



訓練が終わって馬をつないだあとだった、偶然あいつらの後ろ姿を見つけたのは。勧誘式の時は誰が残ったかまでは見れなかったけど、本当に調査兵団に・・・。



「オルオさん、ちょっと同期と話してきてもいいですか?」
「チッ・・・さっさと行けよ」
「あ、それと〇〇さんのことちょっと借りますね!」
「ちょっと、エレン」



さっさとどこかに行こうとしていた〇〇さんの腕を無理矢理引っ張って走った。あれ、この人の腕ってこんなに細かったっけ。背はこんなに小さかったっけ。何故かそんなことを考えた。



「おい!」
「エレン!〇〇さん?」
「しばらくぶりに会った気がするぞ」
「お姉ちゃん・・・」



ミカサは一瞬〇〇さんを見て、気まずそうに視線を逸らして俺に何かされなかったかと詰め寄ってきた。〇〇さんは〇〇さんでどこか遠くを見ている。毛ほども俺達に興味が無いような雰囲気で。



「皆、この人はミカサの姉ちゃんの〇〇さんだ!リヴァイ兵長に次ぐ実力者って言われる程の腕を持ってて」
「エレン、言わなくていい・・・新兵諸君、私は〇〇・アッカーマン、よろしく」
「ミカサの姉ちゃんにしては似てねぇな?」
「ジャン・・・!?どうしてお前がここに・・・お前とアニとマルコは憲兵団に行ったんだと・・・」
「マルコは死んだ」
「え・・・今何て言った?マルコが?」



マルコが、死んだ?あのマルコが?どうして、何があった。俺が知らないところで、何が。



「誰しもが劇的に死ねるってわけでもないらしいぜ、どんな最期だったかも分かんねぇよ・・・立体機動装置もつけてねぇし・・・あいつは誰も見てない所で人知れず死んだんだ」



どう、言葉を返せばいいのかすら分からなくて思わず〇〇さんの方を見てしまった。見なきゃ、良かった。何でマルコを知らないあんたがそんな顔するんだよ・・・そんな泣きそうな顔を。



「お前巨人になった時ミカサを殺そうとしたらしいな?それは一体どういうことだ?」



立て続けにジャンに詰め寄られて、俺はそれに正直に答えることしか出来なかった。この力の存在も知らなかったし、掌握する術も無い。ジャンの言ってることは何も間違ってない。〇〇さんは話を聞いているのか聞いていないのか分からないけれど、さっきの泣きそうな顔ではなくなっていた。



「俺達はエレンに見返りを求めている・・・きっちり値踏みさせてくれよ、自分の命に見合うのかどうかをな・・・だから・・・エレンお前・・・本当に・・・頼むぞ?」
「あ・・・あぁ」



俺はそう返すのが精一杯だった。そうだ、こいつらの命でさえも俺に懸かってると言っても過言じゃないんだ。俺の働き一つ一つがこいつらの命に直接関係してくる、かもしれない。それはもちろんこいつらだけじゃなく、調査兵団全体・・・そしてこの人の命にも。



「エレン、そろそろ行かないと兵長が」
「あ、はい・・・でも少しくらいミカサと話を」
「・・・そう、だね」



そう言うと〇〇さんはミカサの真正面まで歩いていって、止まった。一瞬の沈黙の後に、〇〇さんが先に動いた。



「ごめんね、5年間も放ったらかしにして」
「・・・どうして?」
「何が?」
「全部・・・全部どうしてなの?」
「色々あったから」
「・・・お姉ちゃん」
「何?」
「全部許す・・・生きていてくれたから・・・許す」
「・・・ありがとうミカサ」



〇〇さんはミカサに触れようとして、やめてしまった。それを見かねたのか、ミカサから〇〇さんに触れて強く抱きしめた。ミカサの方が背がでかいから、どっちが姉ちゃんか分からねぇような何とも不格好ではあったけれど。それでも抱きしめてくれた。5年間ミカサが願っていたことが、今叶ったような気がした。



「新兵の皆、ミカサは不器用な子だから何かと迷惑をかけるかもしれない・・・よろしく頼む」
「は、はい!」



何でお前が一番でかい声で返事してんだよ、と心の中でジャンに突っ込んだ。〇〇さんは皆に頼んだんだ、お前に頼んだ訳じゃねぇだろ。



「いい返事だ、ジャン・・・だっけ?」
「はい、ジャン・キルシュタインです!」
「覚えておくよ、じゃあもう行こうエレン」
「はい!じゃあお前等またな・・・」
「エレン・・・お姉ちゃんのこと、お願い」



最後にミカサが小声でそう言ってきた。何をとは言わなかったけれど、何となく分かる。俺がここ数日で察したこの人の異変をミカサはこの短時間で悟ったんだろう。血は繋がってなくても、分かるんだろうな。



「エレン・・・」
「すみません、無理矢理」
「いや、いい・・・あんたのおかげであの子と向き合えた」
「・・・〇〇、さん」



そう言って笑ったこの人の顔は、あんまりにも歪で今にも泣き出しそうな笑顔だった。昔俺等に見せてくれていた笑顔と今のそれを比べると、何も出来ない自分にうんざりする。結局俺等は、俺はこの人に守られることしか出来ねぇのかよ。



「俺の母さんが死んだのも、ミカサの両親のことも、あんたの仲間のことも・・・〇〇さんのせいなんかじゃない」
「・・・誰から聞いたの?ペトラあたり、かな」
「・・・そんなに辛いなら俺も一緒に背負うから、俺はもうあの頃の無知なガキじゃない」
「随分偉そうなことを・・・ううん、あんたが偉そうなのは昔からだったね」



そう言った〇〇さんは、さっきよりは普通に笑ってくれていた。5年前とあまり変わらない、楽しそうな笑顔だ。まだそんな顔も、出来たんじゃねぇかこの人は。



「別にあんたに頼らなくても、1人で事足りるよ」
「・・・嘘つきなところ、変わってないんですね」



疲れてないからとか、無理してないからとか、大丈夫だからとか、昔からこの人は嘘つきだ。自分を大事にしないところ、本当に変わってないんだな。俺の母さんもいつも言ってた、あの子は優しすぎるからって。それがあの子の悪いところだって。



「〇〇、さん・・・」
「・・・何、この手?」



俺よりも小さくなった手を無意識のうちに握っていた。俺の手とは全く違う・・・白くて、小さくて、冷たい手だった。こんなに小さな手の人が、全てを背負い込んでいるのが嫌だと感じた。この人の手よりもよっぽど大きい俺の手が、この人を救ってやれないことが不甲斐なく感じた。



「エレン、どうしたの?」



逃げようとする手をうっ血する程に強く握りしめた。俺は男だから、守らなきゃいけねぇんだ。俺の家族を。



「もうガキ扱いは、うんざりだ」



ほとんど自分に向けて言ったんだと思う。この人の方が年上だとしても、この人やミカサの方が強かったとしても。俺は1人の男として守らなきゃいけねぇものがあるんだ。

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