「〇〇、お前は右だ!」
「はい!」



今日まで何人の仲間が死んできただろう。私の同期は13人居た筈だったけれど、生き残っているのは私を含めて2人だけになってしまった。兵長に指示された通り右から来ていた11メートル級の項を削いですぐに周囲を確認する。左から更に2体、7メートル級と10メートル級か。少し離れたところにペトラ達が居ることも確認した。兵長が行ったのとは逆の方向が手薄かもしれない。



「ペトラ!左の2体は私がやるから後方の援護をお願い!」
「ちょっと、〇〇!」



7メートル級の項を削ぎに行くついでに10メートル級の目を切りつける。視界が奪われて動きが鈍くなったそいつの後頭部にアンカーを打ち直して頭頂部が真下に見えた瞬間もう一度アンカーを項付近に打ち直す。落下する時の内臓が浮かび上がるような不快感に息を大きく吐きながら、めいっぱい力を込めて肉を削ぎとった。自分の近くはあらかた片付いたけれど、他は問題ないだろうか。



「・・・ジェイソン!?」



こんな感覚は久しぶりだった。体中の血が無くなっていくような、息がうまく出ないような、世界の色が消えていくような。こんな感覚は。出鱈目にアンカーを打ち込みながら、滅茶苦茶にガスをふかしながら、それでも私の目はずっと彼を見ていたと思う。最後の同期、ジェイソンが巨人の手に潰されようとしているその姿を。



「嘘だ・・・嘘だよ・・・だってあんたは」



あんたはそんなヘマするような奴じゃなかった。訓練兵を卒業した時、あんたは2番目の成績で凄く悔しがってた。何で俺がお前みたいなチビに負けるんだって、凄く悔しがってた。あんたは立体機動と状況判断が上手くてよく教官に褒められて、それを私に自慢してた。そして今日まで私と一緒に生き残ってきたのに、どうして。



「ジェイソンを、放せ」



最初に項を、そして指を切り取って地面に落ちていくジェイソンの体を抱き締めた。無様に転がりながら地面に降りて、ジェイソンを抱え起こした。覗き込んだ顔は、今までに見たことないくらい優しい顔だった。



「ジェイソン、しっかりして!」
「俺も、死ぬんだな・・・」
「何言ってんの?あんたらしくない・・・私より先に死んでたまるかって言ってたじゃない」
「結局お前には・・・負けっぱなしだな・・・」
「なら勝つまで、生きてよ」
「こんなとこで死んじまうなら・・・もっと、前に・・・言っとくんだった」
「何?家族に言伝なら、私が必ず伝える」
「そんなんじゃねぇよ・・・お前にだ、チビ」



だから、そんなに優しい顔で笑いかけないでよ。何勝手に満足そうな顔してんの、いつもみたいに憎たらしい顔でチビって言ってよ。自分の頬に触れる大きい手を強く握った。あんたは死ぬの?こんなところで、死ぬの?まだこんなに暖かいのに、死ぬの?



「俺、お前に惚れてたんだ・・・馬鹿みたいだろ?あんだけお前のこと・・・馬鹿にしてたのに」
「・・・何で今、そんな」
「〇〇お前・・・頼むからっ・・・笑って、生きろ」
「・・・ジェイソン」



たくさんの人間が死ぬのを見てきたくせに、目の前のジェイソンが死んだことが理解出来なかった。いくら呼びかけても目を開けない彼の心臓が止まっていると気がついたのは、隣でペトラが泣いているのに気がついた時だった。



「もう、彼は・・・」



笑って生きていくには、この世界はあまりにも残酷過ぎるよ。



「〇〇、退却命令が出たの・・・急ごう」
「退却命令・・・もう、帰るの?」
「巨人が街の方へ向かい始めたらしいの、壁が破壊されたのかもしれない」
「そんな・・・」



もう一度彼の顔を見て、その顔を目に焼き付けた。ジェイソンの首元をまさぐって、いつも彼がつけていたペンダントをはずした。それを自分の首に下げて、彼との思い出を10秒間だけ振り返った。ごめん、私はもう行くよ。あんたの、あんた達の思いも私が全部持っていくよ。



「さよなら、ジェイソン」



ペトラの背中を追いかけて、もう後ろは振り向かなかった。他の兵士に彼の遺体を頼んで、空を見上げた。



「ペトラ、壁が破壊されたのは間違いないの?」
「まだ分からない、けれど最悪の事態は考えておくべきだと思う」
「そうだね、急がないと・・・壁の中には妹がいる」
「あなた妹が居たの?」
「・・・もう何年も会ってないけどね」









団長の予想通り壁は破壊されていた。駐屯兵団を中心に何かしているようだったけれど、兵長が真っ先に前線に向かって行くのを見て自分もそれに続いた。巨人が集中している地点に着くと兵長が左に飛ぶ、右はいつも私の仕事だ。2体の項を削ぎとって兵長の後ろに着地して指示を待った。



「おいガキ共・・・これは、どういう状況だ?」
「・・・おねえ、ちゃん?」



見ないうちに、大きくなったね。ミカサ。

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