別れるときに「幸せになってね」って言う人間が嫌いだ。さよならを言い出した方がいつも必ず言うそれが嫌いだ。言われる方からしてみればあなたといることそれが幸せだったんだよって話でしかない。さよならって勝手に切り捨てておいていい人ぶって幸せなんか願うな。その人にとっての幸せが何だったか知ってるくせに勝手に願うな。



「無責任な女だったんだね」
「笑ってくれていいのよ」
「何で、何がおかしいの」



私が至極真面目に問いかけると佐助は細い目を見開いて終いには笑い出した。だから何がおかしいの。教えてよ。



「なに?」
「いや、やっぱり〇〇ちゃんは〇〇ちゃんだなって」
「何それ何かわかんないけど馬鹿にされてる気がする」
「いい意味だよいい意味!」



〇〇ちゃんに話して良かった。そう言われて内心そうでしょと思いつつ彼の耳を見た。あの子からもらったピアスまだつけてるんだ。

目の前に居るのは3年も付き合ってた彼女に昨日ふられたらしい幼馴染み。そしてその幼馴染みの話を聞く私。彼の幼馴染みとしての私。3年前から何も変わらない立ち位置の私。



「何か聞いた?」
「んー、まあ少しは聞いたよ私も」



皮肉なことにこの幼馴染みをふった元彼女さんも私の友人だからなんとなく複雑でもある。幼馴染みと友人とそのおまけの私。それがこの3年間の私。



「何か面倒ごとに巻き込んじゃってごめんね」
「ん?んー気にすんな」
「ありがと、面倒ごとついでに彼女のことこれからも頼むわ」



ストレートティーと混ざり合う氷をストローで意味もなくカラカラつつきながら少し間を置いてうんとだけ答えた。



「はやく新しい彼女作りなよ」
「まあそのうちね〜」
「そろそろ結婚とかも意識するでしょ」
「んーまあね」
「モタモタしてたら婚期逃すよ」
「人の心配より自分のこともでしょ?」



余計なお世話と言いそうになったけどやめた。私がさっき言ったのだって余計なお世話だよなと思ったから。別に彼にとって私は何でもないし私にとっても彼は何でもないことになってるんだから。欲張っちゃいけない。勘違いしちゃいけない。



「あのさ」
「何?」
「結婚する」



本日2度目の間抜けな顔。まあそりゃ驚くよね。何にも言ってなかったから。



「え?誰が?誰と?」
「私がだよ」
「誰と?」
「ん、んー」
「俺様が知ってるやつ?そいつ大丈夫?」
「んーたぶん」
「えー!誰よそいつ聞いてないし!」



うん言ってないからね。あんたがあの子と付き合った後だったかな私もすぐに彼氏出来たんだよ。その人はね私とすごく似てたの。ずっとずっと1人の人を思って生きてきたんだって。その人に好きな人が居てもずっとずっと諦められなかったんだって。でもねその人と私は違うところが1つだけあったの。それは相手に伝える勇気があるかないか。彼にはそれがあった。



「もうすぐ3年になるんだよね・・・そしたらこの間プロポーズされた」
「何その幸せな話俺様を殺す気?」
「佐助の方が先だと思ってた」
「いやいやてか結局誰なのよ?」



彼は心から喜んでくれてるみたいだ。自分の失恋そっちのけで私の話に夢中になってる。何かを期待していたわけじゃないけどそっかそっか。そうだよね。私は彼にとってはただの幼馴染み。



「幸村さん」
「え」
「幸村さんと結婚するの」



また間抜けな顔。そりゃ驚きもするか。佐助は会社で毎日幸村さんに会ってるのに知らなかったんだもんね。しかも自分の会社の若社長なんだから驚かないわけがないか。



「うっそでしょ!?」
「ほんとだよ」
「社長夫人じゃん!」
「そんなのわかんないよ」



心底驚いてでも嬉しそうな顔なんかしちゃってさ。これ以上はやめて。もうやめて。少しでも貴方が残念がってくれるんじゃないか引き止めてくれるんじゃないかと思ってしまった私を許して。誰に対してなのかは自分でもわからないけど心の中で何度も謝った。



「幸せになりなさいや」





(ああ、私は貴方が心底嫌いだ。)
20161219.

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -