――――騰蛇。
 まるで、陽だまりのような。
 そして、「夕焼け色」のような。
 あるいは、

「red spider lily」
 ――彼岸花のような。
 そんなお前が、好きだったよ。



=================================


 最近、騰蛇と過ごす時間が増えた。最近とは言っても、ここ10年ほどのことだが。
 だが、その10年間であれは大きく変わった。――他人を気遣ったり、笑うようになったり。
 しかしそれは、何も彼だけに起こり得たものではなかった。そう、例えばこの私にも影響を及ぼした。
 最近騰蛇を見ていると、思うのだ。

 ――「切ない」と。

 今まではそんなこと、ついぞ思わなかった。だが、何故だかはわかりきっている。だからそれを感じる度に自らに言い聞かせるのだ。
“私は、あいつを想う資格などありはしないのに”……と。


 月のような奴だと、思っていた。
 見えても誰も近づけない。まるで孤独に夜空に浮かぶ、寂しく鋭利な三日月。確かにそこに傷はあるのに、闇で隠して他者を避けて。欠けたその場所は、何者にも埋められることは無かった。
 ――――その場所を埋めたのは、14年前の邂逅。
 今も昔も、おそらく一番近しい同胞は自分だろう。だか、私ではあいつの欠けを埋めることは出来なかった。……私では、あいつの光になることなど出来なかったのだ。
 昌浩(ヒカリ)に出会って、三日月は満月となって輝き始めた。そして、表側しか見ることの赦されなかった私が、光に照らされて見えた裏側に魅せられた。
 前から信頼に値する奴だとは思っていた。だが、それが確実にどこか一線を画したのは、あいつが変わってからだ。
 これほど滑稽な話もないだろう。私では彼を変えることは出来なかったのに、変わったあいつに惚れるとは。しかももしあれが変わらなければ、ここまで好きになることは無かっただろう。こんなに苦しむことも無かっただろう。
 だがきっとこれは、あまりに身勝手な想いへの、罰なのだ。
 彼の一番はもう定まっていて、それは揺るぎのないもので。それはよくわかっているのに諦めきれない自分が居ることへの罰。
 騰蛇と過ごす度に、想いは膨らむ。同時に切なさも感じている。私には、あいつの一番になる資格などありはしないのに。仮に私が心のどこかで希う関係になって、彼の足枷になることも望まないのに。彼の一番は昌浩で、それは昌浩が彼にとってかけがえのないものをくれたから。そして我らが主の晴明も、彼にとってやはり同じ理由で大切な存在。だから、何もしてやれなかった私はあいつの一番になることなど出来ないし、なろうとも思わない。そしてその資格さえない私には、想うことなど赦されない。
 わかっている。だがそれでも想いは膨らむから、
 
 この辺りで、終止符を。
 
 この想いに蓋をして。この感情を心の奥に大切に、しまい込もう。今ならまだ、ギリギリ引き返せるから。今ならどうしても諦められなかった気持ちを、諦められそうな気がするから。
 だって騰蛇、お前は、
『――慧斗!』
 あの時確かに、そう呼んでくれただろう……?
 あの言霊を、お前が知っていると言うのなら。そして、一度でもそう呼んでくれたのなら。
 私はもう、それだけで充分だ。

 …………それでも。
 私にも、ささやかな我が儘が赦されるというのなら。
 一度だけ呼んでも、いいか?
 心の中で、お前のことを、――紅の、蓮と。



 (知っててくれて、ありがとう。
 想ってくれとは望まない。お前が私の十二神将としてではない、魂の名を知っていてくれるだけで。
 束の間、そばに居させてくれるだけで。……充分だよ。




 ―――紅蓮)



―――――――
ねぇ、確かに愛していたよ?
心に秘めたその声は、希っても決して届くことなどなかった。


 
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -