今年も残り、あと僅か。テレビに映るカウントダウンの残り時間も一桁になった。
 今年最後の大仕事をどうにか終え、テレビを見ながら年越し蕎麦をすする紅蓮は、今年も色々あったなぁ、と一人感慨にふけっていた。大晦日だろうが特に外に出て何かをしようと言う気にはならず、大人しく自室で石油ストーブの温もりに包まれていた。明日になれば台所にある大仕事の結果、即ち手作りおせち目当てでどうせ誰かしらやって来るのだ。それまでの嵐の前の静けさを楽しんだっていいじゃないか、というのが紅蓮の考えだ。
 ごちそうさま、と手を合わせる。――今年も残り、30秒。ギリギリだ。
 テレビの向こうのタレントらの熱気も徐々に高まり、本格的なカウントダウンの体制に入っている。
 残り20秒。……16、15、14、13。客とタレントと一体になった声が高まる。
 残り10秒。……9、8、7、6、5、4、3、



 ――――――♪♪♪



『HAPPY NEW YEARー!!』
 画面の向こうで声が爆発する。2011年最後の着信に驚いた紅蓮は、2012年のその瞬間を見逃してしまった。
 ……あ。となんとなくやるせなくなりながら、このタイミングに誰だ? と傍に置かれた携帯を見遣ると、ディスプレイに表示された名前はよく見知った一文字。
「勾?」
 あけましておめでとうの類いだろうか。とりあえずメールを開く。


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from 勾
subject Re:
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あけましておめでとう。
昨年は世話になったな。今年もよろしく。

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 予想通りの内容に笑みがこぼれる。彼女らしくデコメも絵文字もないシンプルなメールだ。返信くらいするか、とボタンを押しかけて気づく。
 着信時間が“2011/12/31 23:59”であることに。
 そういえばカウントダウン終了間際で着信したのだから、新年の前の受信で当たり前なのだ。とはいってもほんの数秒前だから、ぴったりにつかせようとしたものの少し早くついてしまったのだろう。メールが何秒で着信するかなんてわからないから仕方ない。数秒の誤差で済んでるあたりが流石だろう。
 まぁとりあえず、と返信ボタンを押してメールを作成する。

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to 勾
subject Re:
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あけましておめでとう。
こちらこそ今年もよろしくな。

P.S.
惜しいな、お前のメール、数秒フライングだった(笑)

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 手早く打って送信ボタンを押す。だが、同じようなメールが飛び交っているのか中々送信されない。三度やって三度失敗した時には思わず舌打ちした。もしかしたら彼女はこれを予測して早めに送信したのかもしれない。
 四度目でどうにか送信成功した時には紅蓮も思わず息を吐いた。ぱたんと携帯を閉じてテーブルに置き、食べ終えていた年越し蕎麦の片付けに取り掛かるべく立ち上がった。返信はこの混雑ですぐにはこないだろうと踏んだのだ。それに一人分の丼と箸、蕎麦を茹でた小さな鍋を洗うのにそう何分もかかるものじゃない。
 さっと片付けを済ますと、あの回線をどうにかくぐり抜けて来たらしいあけおめメールが数通届いていた。今返してもどうせ、と返信は朝にしようと決め込み、一通りのメールを見てまた閉じた。つけっ放しだったテレビに目をやると、早速新年ライブと称して様々なアーティストが演奏していた。

 ――――――♪♪♪

 さっきも聴いた聞き慣れた音。あぁ勾か、とディスプレイもろくに確認せずに開く。

 メールの文面を見た、瞬間。思わずテーブルに突っ伏さずにはいられなかった。


――――――――――
from 勾
subject Re:
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あぁ、いいんだよフライングで。

だってフライングで届けば、お前に1番始めに挨拶出来るだろう……?

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「――――っ…!!!」

 つまりフライングなのは敢えて、な訳で。


 その後おせち目当てで来るメンバーにしっかり含まれていた彼女の対応に紅蓮が苦労したのは言うまでもない。



 計算された『二秒前』


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こんなの反則だ、なんて言える訳もなくて


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