†続・御神籤の行方 / 紅勾(現代)


※Mainにある『御神籤の行方』の続編です。もし読んでいない方がいらっしゃったら、そちらを先に読まれることをお勧めします。






「ところで、お前は何を引いたんだ?」
 そういえば何も言わない、今年活躍予定の男に声をかける。……返事が無い。疑問に思っておい、と軽く小突く。……反応無し。思わず首を傾げる。
 まじまじと観察する。……何だかこいつ、固まってないか?
 視線をたどれば当然のように彼が引いた御神籤がある。何を引いたんだこいつは、と思い、背伸びをして彼の手元を覗き込んで――――思わず吹き出した。
「……………………おい」
 場が場なので自重して、それでも盛大に肩を震わせていると、我に還ったらしい騰蛇に半眼で見下ろされた。笑いながら待て、と手で示す。
 彼が引いた御神籤。その運勢は、

 ――――凶。

「……っいや、新年早々珍しいものを引いているじゃないか。運がいいな……っ」
「大笑いしながら言われても説得力無いんだが」
 彼の半眼は変わらない。彼なりに落ち込んでいるだろうからな、といい加減笑うのを堪えた。
「ふぅ……いや、運がいいと思ったのは嘘ではないさ。場所にもよるが、大体の神社は大吉を一番出しやすくしているらしいと聞いたことがあるからな」
「……それ、本当か?」
「さぁな」
 騰蛇は実に複雑そうな顔をした。運がいいんだか悪いんだか非常に微妙なせいなのか。
「……とにかく、とっとと結んで帰るぞ」
「あぁ、結ぶ前にちょっと待て」
 不機嫌をあらわにして歩きだそうとする彼を引き留めた。
「何だ」
「それ、見せろ」
「は?」
 手の平を差し出しながら言うと、困惑したように眉を潜められた。
「凶なんて希少価値のあるものに、どんなことが書いてあるか興味がある。読ませろ」
「はぁ!?」
 驚きと心底呆れたような色が彼の表情にあらわれた。最早視線などお構いなしだ。
「いいだろう見なくても。せっかくの大吉の運勢が下がるぞ」
 そこに一瞬顕れた焦りの感情を、もちろん勾陣は見逃さなかった。
「何を焦っているんだお前。見るくらいなら下がりはしないさ。貸せ」
「いやだからな……うおっ!?」
 さりげなく後ろ手に隠そうとしていた御神籤を素早く奪おうとしたら、すんでのところでかわされた。
「……そんな反応されたら余計気になるだろうが。そんなに嫌なのか?」
 むっとしながら言えば、騰蛇は目を泳がせて口ごもった。あーだのうーだの言いあぐねているのだろう。
「どうせ凶なのはバレてるんだから、素直に諦めろ」
「いやそういう問題じゃなくて、だな」
 なんとか言い逃れようと言葉を探しているのは明白だった。一応盗られないように御神籤にも気を配っているが、やはりそれは勾陣にとっては隙だらけなわけであって――――
「ってあ、おい!!」
「隙ありだ」
 今度こそ御神籤奪取に成功した。取り返されない内にさっさと読み進める。
 ……相手が騰蛇だからなのか、いけないと思いつつ、また笑いが込み上げてきた。流石凶。随分悲惨なことが書いてある。
「……だから笑うな」
「あ、」
 くくく、と喉を鳴らすと、不機嫌さが復活した騰蛇に上から御神籤を取り上げられた。先程までの焦りは払拭されているようだ。まぁ、私に読まれてその根本的原因が消えたからだろうが。
 騰蛇は仏頂面で御神籤を縦に半分に折り、さらにもう一度折って四つ折の状態にして奉納所に結び付けた。途中で取り上げられたために全ては読めなかったが、あれからまた取り戻してこれ以上これの機嫌を損ねるのも面倒だから良いとしよう。
「ほら、今度こそ帰るぞ」
 ぽん、と一度勾陣の頭に手を置いて、騰蛇は帰りの階段へと足を向けた。私もそれに倣う。
 相変わらず視線は纏わり付いて居心地が悪いが、それもあと少し。我慢してやろう。

 帰ったら何をしようか。彼をいじるのはもちろんだが、どういじってやろうか。
 来る時とは打って変わって胸を躍らせながら、幾分か人の減った境内を、抜け出した。




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 バイクを走らせながら、騰蛇はひとつため息をついた。
 よかった、これの反応を見る限り読まれてない。読んでたら絶対からかいのネタにするような奴だ。黙っているわけがない。つまり読まれてない。
 彼の安堵の訳は、彼が御神籤を隠そうとした訳と通じていた。
 彼はあの時、凶を引いたから固まっていただけではない。確かにそれにも衝撃を受けたが、その最たる理由は、
 彼が幸か不幸か始めに目が留まってしまったもの、つまり、


『恋愛…最悪。なんじの想いただ潰えるのみ』


 ――――の文字。
 おかげで思考回路がショートした。いっそ彼女に笑い飛ばされた方がよかったか。……いや、こればかりはあれに笑い飛ばされたら多分立ち直れない。
 何せこの示す“想い”の向かう先は。

 赤信号にブレーキをかける。それにしても、と思った。

 もしかしなくても、俺またこれに何も言えず仕舞いか。
 足を地面につきながら、騰蛇は再び落胆の意味のため息を大きくついた。






 反した神籤の行方


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踏み出すのを止めた一歩は、何処へ向かうのだろうか



 
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