「あれ?」



「どうしたい、エース。」



「いや、マルコに貰った書類がねェんだよ。確かにここに置いといたんだけど…。」



「へぇ…そうかい。一発殴らせろよい。」



「え!?マ、マルkっ!?…いぃってぇえ!!」



返事を聞く前に殴られた頭を抑えながらゴロゴロと甲板をのたうち回る俺を、冷めた目で見下してくるマルコに内心冷や汗がダラダラだ。


わかっている。
悪いのは俺だ。
マルコから書類を受け取ったのは3時間程前で、渡された時に風に飛ばされるといけないから、すぐに部屋に持って行くようにと散々注意を受けていた。
それにも関わらず書類を甲板に放置し、あまつ失したのは俺のせいだ。
これは骨の2・3本は覚悟しといた方が良いかも知れない。


ダラダラと冷や汗を流しながら正座し、目の前に仁王立ちするマルコをチラリと見上げてすぐ後悔した。
めちゃくちゃ怒ってるぞ、あの顔は…。


自分の生死について真剣に悩んでいる時、不意にマルコの後ろから声がかかった。



『マルコさん、その書類ならば僕が持っていますよ。』



「あ?あぁ…なんだお前さんか。」



額に青筋を浮かべたまま振り返った先にいたのは、小さな少年。


柔らかそうな焦げ茶色の髪を撫で付け、釣り上がった黒耀石の瞳を銀縁の眼鏡で隠した少年は、手に分厚い本を持ちながら憤慨中のマルコを静かに見据えている。


見るからにインテリ系のこの少年はキングデューの息子で、つい最近9歳になったばかりだと言うのに大人顔負けの知識と落ち着いた雰囲気を持っている。



『はい、僕です。書類、今から持ってきましょうか?』



「あぁ、頼むよい。俺はその間コイツにお灸を据えとくよい。」



「ちょ、マルコ勘弁してくれよ!書類も無事だったんだしよ、な?」



「書類を保持してんのはテメェじゃなくてコイツだろい。」



「そ、それは…おいチビ!お前も突っ立てないで助けろよ!」



『マルコさん、たっぷりお願いします。』



「任せとけよい。腕が鳴るぜ…。」



「止めてそのドS顔!」



スカした子供に助けを求めたのに、アッサリ見捨てられた俺は恐る恐るマルコの様子を伺う。
生き生きとした顔で指を鳴らすマルコに本気で生死に関わると判断した俺は必死で頭を下げて謝ると、舌打ちして頭を踏み付けられるだけで済んだ。
人を足蹴にするのが好きなマルコにたっぷりお灸を据えられたりしたら、確実にあの世逝きだ。
まぁ、何人かは新しい扉を開いたらしいが…俺はそんな扉開きたくない。


しばらくするとチビが書類を抱えながらやって来たのでマルコは部屋に帰ってしまった。
床に額を付けたまま動かない俺に、チビは何事もなかったかのように手にしていた書類を差し出してきた。



『はい、エースさん。』



「いらねェよ、そんなもん。てかチビ!お前少しは俺を助けようとか思わなかったのかよ!」



『僕はチビではありません。だいたい、あれは自業自得というものです。書類が風に飛ばされていたら頭を踏み付けられるくらいじゃ済まなかったと思いますが?』



「ぐっ…そ、それは…そうだけど…。」



『でしたら踏まれるくらいで済んだと考えるべきです。そして、もう二度と同じ過ちを繰り返さないために僕の渡した書類を直ちに部屋に持っていくのがエースさんが取るべき行動であって、僕に理不尽な文句を言っている場合ではありません。』



「くっ、相変わらず可愛くねェガキだな!キングデューの方がまだ可愛いぜ!」



『僕を父さんと一緒にしないでください。それに、僕はエースさんに可愛いと思って欲しいなんて一回も思った事はありません。』



差し出された書類を受け取りながら悔しさ紛れに皮肉ると、済ました顔でサラリと返される。


この少年はキングデューの実の息子なのだが、本当に血が繋がってんのか甚だ疑問だ。
キングデューは隊長の座に着くだけあって実力は折り紙付きなのだが、頭がキレる訳ではない。
書類整理も不得手でよく間違ってマルコに注意されている所を見る。
あまり喋るのが得意ではなさそうだし、捻くれた性格って訳でもない。
どう考えたって正反対なこの少年が実の息子と言われてもピンッと来ないと言うのが正直な感想だ。



『さ、行きますよ。』



「へ?何処に?」



『僕の話し聞いてましたか?エースさんの部屋にですよ。どうせ放って置いたらまた書類をそのままにしてマルコさんに怒られるのは目に見えてますからね。仕方がないから手伝ってあげます。』



「え?いや、でも…。」



『そういうの得意なんですよ。よく父さんの書類整理を手伝っていますから。』



ツンッとそっぽを向き、早口でまくし立てるとさっさと俺の部屋に向かって歩き出してしまう。
慌ててその小さな後ろ姿を追いかけながら、つい小さく笑ってしまった。


部屋への道すがら下っ端共のいる部屋の前を通り過ぎようとした時、廊下の遠くで誰かを探すようにキョロキョロと辺りを見回す人影が見えた。
隣を歩いているチビには見えていないのか済ました顔して歩き続けている。
あの人影は多分キングデューだろう。



「おーい!キングデュー!」



「ん?あぁ、エース。済まないが息子を見てないか?」



『父さん、僕はここにいますよ。何か御用ですか?』



「あぁ、エースと一緒にいたのか。いや、ただ姿が見えなかったから…。エースと遊んでいたのか?」



『いえ。話せば長いのですが、簡単に言えばエースさんのイザコザに巻き込まれ、今からエースさんの書類整理を手伝う所です。』



「おい!」



『間違ってますか?』



「ぐっ…ま、間違ってねェ…けど…。」



ぐぅの音も出ない俺と済まし顔の息子とを交互に見遣り苦笑いしたキングデューはチビの頭をポンポンと優しく叩く。
その優しい手つきに照れたのか、釣り上がった瞳を細め下がってもいない眼鏡を押し上げる。


こういう照れたりする仕草は可愛いくせに…。
普段があんな可愛くない感じだからなぁ…。



「そうか。お前は本当に頭がいいな…。お前は俺の自慢の息子だ。それに引き返え俺は…。」



「キングデュー?」



「なんと言うか…頭が良い訳ではないし、口も下手だ。我ながら自分が情けない。」



『そんな事はありません。』



瞳に陰りが見えたキングデューはポツリポツリと愚痴るように零す。


まぁ、こんな出来た息子がいると父親はコンプレックスを感じるもんだからな。


言う度に沈んでいくキングデューにどうしたら良いのか分からずアワアワと慌てていると、キッパリと否定する甲高い声が割って入ってきた。
言わずもがな、キングデューの息子だ。



『確かに父さんは頭が良い訳ではないですし、口下手です。でも、僕にないものを一杯持っています。』



「…そうか?」



『父さんはとても優しい。口下手な分、目や態度がそれを充二分に伝えてくれています。非力な僕や部下の方々を命を張って守ってくれます。僕は…父さんのそういう所がとても好きです。』



素直に語られる息子の言葉を懸命に聞いていたキングデューの瞳が潤んでいくのが分かる。
意外と涙もろいキングデューの事だから、きっと泣くだろうなーと思いながらチビの言葉に胸が暖かくなるのを感じていた。


本心からの言葉はとても暖かい。
無意識に目を細め、数歩後退ってキングデュー親子を眺める。



『頭が良いだけなら、誰も守れないし助けられない。どんな“力”も“誰かのために”使わないと意味がない。父さんは僕にそれを教えてくれました。父さんは、僕の自慢の父さんです。』



「お前は…そう思ってくれるのか。」



『はい。僕は父さんの事を世界で1番尊敬しています。』



「…っ、ありがとう!」



感極まったように搾り出した声で礼を言うと、息子の小さな身体をギュッと抱きしめた。
ヤレヤレとでも言うように笑ったチビは、キングデューの大きな背中を小さな手で摩っていた。
まるで親と子供の立場が逆転したかのような光景に苦笑いしながらソッとその場から立ち去った。


しょうがない。
書類は自分で片付ける事にしよう。


















Clap Danke☆




―――――――――
拍手ありがとうございました!
今回は親子シリーズのキングデュー編です!

えー…まず一言。
キングデューのキャラがわからないwww
もう捏造もいいとこですよ(笑)

まぁ、見るからに体育会系のキングデューの子供がスカしたインテリ系だったら面白いかなーって思って書きました!
あと、マルコがドSなのは仕様です(笑)


えーと…次回はブラメンコですね♪


まだまだリクエスト募集しておりますので、このキャラの親子が見たい!などの希望がありましたら是非!


レスはブログにて☆
.




人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -