07


『…雪?ちょっといいかな?』
ちょっと雪借りるねーと平然を装い雪を少し離れた場所まで連れていき『どういう事よ!』と問い質す。
本人は悪気が無いらしく、楽しめばいいのいいのと楽観的。こいつ、どうにかさせるつもりだな。
まず、雪が想像するような感情はもう無いし、いや、前は確かにかっこいいとか好きになったかもとか思っちゃった時もあったけど!でも今は今の生活を楽しみたいし、恋愛なんてしている暇なんか無いし、まず第一にイケメンとか綺麗な人間はやっぱり私には不釣り合いだし、まず私は今日の格好クソダサい!!!!!


『とにかく!無理!』
「大丈夫大丈夫、あんたどうせダサいとか馬鹿な事で諦めようとしてるんだから、今日はそれを直すよ。そのためにあいつを呼んだってのもある。あいつ駅前のLoseってブランドで副店してるからセンスは抜群。いっその事全身あいつの好みにして貰ってそのままデートしちゃえばいいじゃん。」
『はぁ!?何勝手な事言って、』
「ほら、行くぞ!おーい!待たせたー!」
と、私の反対を押し切りズルズルと腕を引っ張られながらイケメンくんの前にずいっと出され、不思議そうにしているイケメンくんと目が合った。
…くそ、否定はしててもイケメンなのには変わらない…!

「舞さんって、雪ちゃんと友達だったんだ」
『そう、でした』
「そうでしたって、何それ」
クスクスと笑うイケメンくんは、思い出したかのように私に1枚の名刺を渡す。
そこには先程話に出ていた“Lose 〇〇支店 副店長 吉澤遼”と記載されていた。
イケメンだしアパレルショップの副店長とかさらにハードル上がったんですけど…。

どーも、と名刺を受け取るもイケメンくんの手は引っ込まない。
ん?と見上げると「舞さんの連絡先も後で教えて」と笑顔で言われた。
雪は隣でニヤニヤしっ放しだし、帰りたいと本気で思った。









「これとか似合いそう。まずはロングスカートから履いていこうよ」
早速イケメンくん(名前呼びを強制されたがまだ恥ずかしくて呼べていない)のお店に行き、全身コーデが始まった。このお店は男女の服が売られており、リーズナブルな値段でシンプルなデザインの物が多い印象だ。
イケメンくんが手にしたのは私が普段絶対着ないような物ばかりで『絶対似合わない!!』と初め全力で拒否したのだが、今日はチャレンジして行こうと言うことになり、渋々イケメンくんの選んだコーデをあて始めたのだ。ワンピースとかを差し出されたが流石に抵抗があり、もっとカジュアルなスポーティーな物でと頼んだところ、ロングスカートに行き着いた。という感じだ。

『デニムのロングスカート?』
「そ。これに無地のTシャツでもいいけど、柄シャツでも似合うから、今日は柄シャツも選んでこ。」
『柄シャツとか買ったことない…』
「だからじゃん、俺選ぶし、絶対似合う。後でヘアゴムも可愛いの選ぼうね」
言えば自然と頭をぽんぽんとされる。



なんだ
なんなんだこのイケメンくんは!
頭ぽんぽんとか少女漫画の世界でだけ存在するものじゃないのか!?
え、実際に起こり得る事なの?世の女性は男性に常日頃からされているの!?


「ん?舞さん?」
『なななな、何です!か!?』
「ほら、このカラフルな柄シャツとか合う」
イケメンくんは赤と黒と少しのターコイズが入った花柄のシャツをロングスカートに合わせていた。シャツはインをするのが定番らしく、足元はくるぶしまでのホワイトソックスにホワイトブラックのキャンパススニーカーで合わせた。いかにも今時の若者の服装である。
可愛いとは思ったが、三十路の私にこんな若者コーデなんて似合う筈もないとイケメンくんに伝えれば盛大に笑われた。

『そこまで笑わなくてもいいじゃない!!三十路のおばさんがそんなにも可笑しいの!?』
「や、違くて…、…服はさ、色々な物を着るから楽しい訳で、着たことの無いジャンルなら新しい自分に出会えるし同じ服でもアレンジ1つでガラリと変わるものなんだよ。例えば、舞さんの履いてるジーンズに今選んだシャツ合わせても凄く似合う。少し視点を変えるだけでこんなにも雰囲気が変わっちゃう。歳なんか関係ないよ。舞さんには舞さんに似合う服がある。それにただ気付けなかっただけ。もし1人じゃ気付けないなら、俺が手伝うよ。」
ね、と優しく微笑まれ、心がギュッてなった。

そう、1人じゃこんな風に見ていて楽しいコーディネートなんか出来なかった。服なんか何着ても一緒だと思って選ぶ楽しさなんかこれっぽっちも感じてこなかった。
でも、イケメンくんの言う通り、似合わないと決めつけて逃げるのはよそう。
着たいものは今まで少しだったがあったりもした。でも着ることが出来なかった。恥ずかしいし似合わないと逃げていたんだ。


『……似合わなくても笑わない?』
「どうして。舞さんが勇気をだして新しい事に挑戦するのに笑うやつなんか居ないよ。だからさ、着る一歩、踏み出そう」

そう言えば、はい、と私に服を手渡した。
素直に嬉しいと感じた。
こんなダサい私だけれど、可愛くない私だけれど、笑わないって言ってくれた目の前の彼に、キュンとした。





(因みに雪は一人メンズ服を漁っていた)

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -