呪術師を続けたところでろくな事が無い。 顔に大きく残る傷を負うわ、同期は片手で数えた方が早いくらいしか生き残ってないわでメリットなんて皆無に等しい。 『もうねぇ〜〜〜〜!?何で今年も私は東京校なんだろぉ〜〜〜〜!一緒の所が良いって楽巌寺しぇんしぇーにもお願いしたのにぃ〜〜〜!』 「硝子、飲ませすぎだろ」 「なまえさんが飲んだの、アルコール弱々カクテル二杯ですよ」 硝子の隣でうつ伏してテーブルに頬を付ける同期、もとい幼馴染を見つめる。酒が弱い癖に飲み会という名目で仲間と話すことが好きだからすぐ駆け付ける。が、すぐにベロンベロンに泥酔する。そして私が連れて帰るのがいつもの流れだ。ここ数年はなまえが東京校に転勤した為、そんなことも無くなったのだが。 「なまえさん、歌姫先輩が迎えに来てくれましたよ」 『ええぇ〜〜?歌姫ぇ〜? しょおこちゃん、そんなわけないでしょぉ〜〜〜?うたちゃんは京都にいる、』 顔を上げたなまえと目が合う。酒で赤らんだ顔にぼんやりしていた目がぱっちりと開いて丸い瞳にはっきりと私を映した。その途端、なまえの顔が晴れやかに破顔する。 昔から笑ったなまえはとびっきりに可愛い。 『えええ〜〜〜〜〜〜!!うたちゃんらぁ〜〜〜〜!!!』 「うるっさ!!!」 にこにことしながら上機嫌で私の腕を掴み、隣に座らせる。少し抵抗してみたが、ビクともしない。そういえばコイツ見た目に出ないだけでゴリラ並の筋肉量を持ってるんだった。 『しょおこちゃん見てぇ〜〜〜〜!うたちゃんがいたよぉ〜〜〜!』 「そうですね、良かったですね」 『うん〜〜〜!』 硝子に「子どもじゃん」なんて言われてることにも気付いているのかいないのか、えへえへと機嫌良く笑いながら私の腕にしがみつくなまえは子どもの頃と何も変わらない。 出会ったばかりの頃は、なまえも私も呪霊を見えることを周りに隠していた。 あまり怖さを感じなかった私とは対照的になまえは呪霊と目が合うことさえ恐れていたと言う。それでもあの子は周りにバレないように必死に笑顔を取り繕ってきたのだ。 きっと私達は見える者同士、どこか波長が合ったんだと思う。 “ うたちゃんがいれば呪霊も怖くないよ ” なまえが笑える世界が続けばいい。 なまえがこれからも笑っていけるように、あの子が怖いものから私が守りたい。 それだけを想って呪術師になったのに、なまえまで呪術師になっちゃうなんて。もしもアンタに何かあったら、呪術師始めた意味が無くなるじゃん。 「なまえ、もう帰るよ」 『うたちゃ〜〜〜ん、今日私んちにお泊まりするぅ〜〜〜?』 無邪気に笑うなまえを相手に、私は「あ、うん…」と小さな声でしか返事が出来なかった。 硝子はそんな私にニヤリと笑みを浮かべる。 「…何だよ」 「別にぃ〜? …こんな可愛くなったなまえさんちにお泊まりなんかしたら、歌姫先輩堪えられるのかな〜?と思って」 なんてことを言った硝子をじとりと睨み付けると「こわ〜」なんて思ってもないことを言って酒を煽っていた。本当にコイツらの代は年上を敬う心が無さすぎる。 『うたちゃ〜〜〜ん、一緒にお風呂も入ろぉねえ〜〜〜?』 本当、私の気も知らないで。 「歌姫先輩、なまえさんちに泊まるの嫌なんなら次の店行きましょうよ。五条呼んで皆で飲みましょ」 「なまえ帰るよ!!!」 『はあ〜〜〜い』 五条にだけは絶対に会いたくない。アイツ、私となまえを見るなり「女同士のエッチってどうやってするわけ?ねぇ歌姫教えてよ〜」なんて無礼極まりないことを言ってくるから!!腸煮えくり返るわ!!!! 飲み代を硝子に渡し、腕にくっついたなまえを立たせそのまま大股で店を出た。 「なまえさん、歌姫先輩が思ってるより計算高いって話してみようかな」 硝子の呟き等、店を出てこの後堪えられるか悶々とする私に聞こえるわけが無い。 帰り道、外気の冷たさに少し酔いがさめたなまえが私の名前を呼んだ。 『うたちゃん、死ぬまで一緒にいようね』 「…うん。」 とろりと溶けそうな甘い声に少しだけ子宮がきゅん、としたのは内緒。 やっぱり呪術師を続けたところでろくな事が無い。 2021.01.17 |