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(炭治郎目線)







刀を欠けさせてしまった。




殺されることを覚悟で鋼鐵塚さんに刀を直してもらいに村へ来た。
村の人から鋼鐵塚さんの家を聞き向かうと《鋼鐵塚》の表札を見つけたが、入ろうとすると近所に住む誰しもが「あいつは家にはいないだろう」と言ったが、とりあえずご自宅を伺うのが礼儀だろう。


正直な話、もっと荒屋のような家を想像していたが、実際はごく普通の民家だった。玄関の戸をそっと開けると鍵は開いていた。
あまり立て付けが良くなくて、ガラガラと音を立つ。

鋼鐵塚さんはご在宅なのか。

でも家の中は薄暗く、人の気配はないような気がする。



「ごめんくださーい!」



奥の方まで聞こえるように声を張った。返事も、音もない。もう一度より大きな声で声を張った。



『はーい!』



女性の声が聞こえる。

そして奥から顔を除かせ、慌ててこちらへ向かってくる姿が見えた。薄桃色の着物は襷で袖を上げられており、膝元が少し汚れている。



『お待たせして申し訳ありません』
「いえ!お忙しい時に来てしまったようでこちらこそすみません」
『鋼鐵塚に御用でしょうか』
「はい。刀の修理をお願いしたくて。
鋼鐵塚さんはいらっしゃいますか?」
『生憎、鋼鐵塚は刀を作りに出ておりまして…』
「そうですか…工場の場所を伺ってもよろしいでしょうか?」
『私も用事があって鋼鐵塚の所に行きます故、お連れ致しましょうね』
「ありがとうございます!」
『お名前をお伺いしても?』
「はい!竈門炭治郎です!」
『炭治郎くんですね。少々お待ち下さい』



なんて優しい人なんだろう!

隊士の間では鋼鐵塚さんは独身だと聞いている。ならば、今目の前にいる柔らかな笑みを浮かべるこの女性は鋼鐵塚さんが不在の間、家の手伝いをする方なのかもしれない。



「ちょっと身なりを整えますので、少々お待ちいただいても?」
「勿論です!いくらでも待ちます!」
『すぐに戻ります』



肩元で結んでいた襷を解きながらいそいそと奥に向かう女性の背中を見送る。奥の廊下の突き当たりを曲がった時、



『あら、蛍さん!』



と声を上げた。



『お客様がいらっしゃってますよ』



女性の言葉等聞き入れず、ドスドスと音を立てて追い越してこちらへ向かってくるのは、鋼鐵塚さんだった。



「鋼鐵塚さん!お久しぶりです!」
「お前、あいつと何を喋った」
「へ?」
「何であいつは襷を解いてんだ。何を誑かした」
「何も誑かしていません!」
「嘘言え!!」
「嘘じゃありません!!彼女は貴方の所に連れていって下さると親切にして下さったんですよ?!」
「彼女とか呼ぶな!!」
「何なんですかもう!!じゃあどなたなんですか!!」
『私ですか?鋼鐵塚の妻です』



鋼鐵塚さんの後ろでニコニコと微笑みながら俺達の会話を聞いていた女性はハッキリと言った。



「妻?妻なんですか?
鋼鐵塚さん!!ご結婚されていたんですか?!」
「だったら何だ」
「びっくりです!貴方も人を好きになったりするんですね!」
「好きじゃねえ!!」
『愛してるのよね』
「お前は黙ってろ!
竈門炭治郎!お前は何しに来たんだ!」
「あ、その、刃が欠けてしまいまして」
「何ィ?!てめぇ!!俺の刀をよくも!!」
「ヒィイ!!」



荒れ狂う鋼鐵塚さんを見てもなお、ニコニコと奥さんと名乗るその人は微笑んでいる。



『そういえば鬼殺隊の方が刀の修理の来られると鴉から聞いていたけど、もしかして炭治郎くんその隊士の方?』
「何で名前で呼んでんだ!!!」
『お名前を聞いたからよ』



奥さんは目が合うと『ね、』と柔らかな笑みを向けてくれた。そんな奥さんとは対照的に鋼鐵塚さんは「笑い返したら殺す」と言わんばかりに殺気を漂わせている。いや、言った。


一体どうしてこうなったんだろう。



2020.12.27
(フリリク)(鋼鐵塚さんと妻)