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私は昔から運が悪い。というか選択を間違えることが多いのだ。以前好きになった男は暴力を言語にしているかのような奴で事あるごとに殴られたり蹴られたりした為土に埋めた。道端に倒れていた猫を助けたら感染症になっていた見たいで私の身体から斑模様のような発疹が消えたのは一ヶ月後だった。


とにかく私には悪運がまとわりついている。
もう人助けなんか、動物だって助けないし、人を好きになったりなんかしない。悲しくなんかないし、可哀想なんかでもない。


私は魔法をこれっぽっちも使えない私自身を愛していくのだ。





***




なんて思っていたのが半年前。




「おい、これまだあるか」
『は、はいっ!あります!』



私はとある男の人に拾われた。拾われたというか、何というか、全ては勘違いをされたことから始まった。






半年前。

私はホールで身を潜めながら買い物をしてからの帰り道、例のごとく運悪く大雨に当たってしまった。仕方なく建物に入り雨宿りするつもりで階段に腰掛けていた。頭痛が酷く、身体の怠さは時間を追うごとに重くなっていく。そうこうしているうちにいつの間にか寝てしまった。


目が覚めた時、目の前にいたのがこの大男、
壊さん。



「俺と来るか」



ずぶ濡れで建物の中で一人座り込んで眠る私を見て、貧困で家をなくした者だと思ったらしい。

十字が刻まれた瞼。


私は親切を無下には出来ずタオルだけを借りるつもりで付いていった。







壊さんは顔は怖いが意外と親切だ。

壊さんとお友達が住む場所はなんとあうか、住みやすいとは言いづらい所ではあったが、タオルを貸してくれたし、服が乾くまで壊さんの服も貸してくれた。



私は更に親切を仇で返してはいけないと思い、その場で買っていた材料で料理を振舞った。
対した品数では無かったが、壊さんはよく食べてくれた。



中でも気に入って食べていたのは、ラビオリ。

“美味い” なんてことは言わないが、初めて「これ、まだあるか」と尋ねられた時は天にも登る喜びだった。





閑話休題。



今日で壊さんが家に来るのは十回目。日にちは疎らなものの、誤解が解けて私に家があることを知った壊さんは時々家に来てはラビオリを食べ、そしてまた何処かへ行く。野良猫のような人だ。いや、猫じゃない。虎だ。あの目付きの鋭さは猫ちゃんなんかじゃない。


ラビオリ以外にも作れるのに、壊さんはいつも「ラビオリがいい」と言う。



『ラビオリ、気に入ったんですね』
「おう」



むしゃむしゃと大口を開けて口いっぱいにラビオリをフォークで掻き込んでいる。



『まだありますので』
「くれ」
『はい』



壊さんからお皿を受け取り、継ぎ足す。
二人しかいないけれど四人前を作る。全ては壊さんのお腹を満たすため。

向かいに座る私も一緒に食べるが、食べっぷりの良い壊さんを見ている方が食べるよりも心が満たされた。



『今日も“害虫駆除”のお仕事だったんですか?』
「…
あぁ。」



壊さんは害虫駆除のお仕事をしているらしい。小さく弱い害虫から時には壊さんでさえ手こずる強い害獣までを駆除しているそうだ。先日うちに来た時に返り血がズボンの裾に付いていたことが、害獣の狂暴さを物語る。
初めて壊さんに助けられたあの日連れて行ってもらった家も、害虫駆除の仕事を一緒にするお友達と一緒に住んでいるそうだ。(あまり壊さんは帰っていないそうだが。)



『私は魔法を全然使えないので、素手でも戦える壊さんを尊敬します』



壊さんも魔法使いに生まれながら魔法が使えないそうだ。
知った時は壊さんはこんなに強いのに私と同じところがあるんだと少し嬉しかった。



「…尊敬なんかすんな」



素直に自分の気持ちを伝えられたのに、言われた壊さんの表情はどこか曇っている。



『どうしてですか。強いだけじゃなくて、雨が降るホールで助けてくれたじゃないですか』



顔は怖いけれど、強くて優しい。
そんな壊さんに私は惹かれている。

まっすぐに見つめる私と壊さんは目を合わせようとしない。



「…ラビオリ、まだあるか」
『…、本当によく食べますね』
「お前はもっと食え。いつか殺されちまうぞ」
『気をつけます』
「気をつけて済む話か」



壊さんは小さく笑った。


大事な話に繋がりそうな話題はすぐにはぐらかす。

でも繋がってしまえば、もう来てくれなくなってしまうかもしれない。それが嫌で私もそれ以上は追求しなかった。



壊さんと笑い合える日々が続けば、それでいい。





***



だけどあれ以来、
壊さんはうちに来なかった。


毎日ラビオリを作れるように材料を揃えている。賞味期限が切れたって、新しいのを買って準備している。

壊さんがいつまた「腹減った。」と来てもいいように。


あのね壊さん。私、壊さんの瞼に刻まれた十字の意味知ってたんだよ。

“害虫駆除”の意味も、
ズボンの裾の血の意味も、
あなたがすっきりしない顔をしていた意味も。


あなたが好きだから、知らないフリを続けてるんだよ。

いつか壊さんの口から本当のことが聞けた時は、初めて知ったみたいに驚いた顔をしてあげる。



私は運が悪い。とにかく悪運が付き纏うのだ。
十字目のボスがラビオリを十回も食べに来るなんて、普通の人からしてみればきっと運が無いと思うはず。



悪運を引き寄せて、早く壊さんに会いたい。



いつかまた、あなたに会えたその時は、
あの雨の日に助けてくれた意味を教えてね。






2020.12.11
(フリリク)(壊)