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「煙様、今日のスケジュールでございます」
「うむ。」


煙と生活を共にするようになって分かったのは


「10時から結婚式、披露宴の衣装決め。12時に昼食、メニューは季節のキノコのソテー、ピエ・ブルーと天然海老のフリチュール カレー風味、ジロールとホタテ貝のフリカッセでございます」
「なまえ、今のメニューに嫌いな物はあるか」
『キノコ』
「問題無い。次に進め」
「はい、ボス」


話を全く聞かれないまま、部下の人はスケジュールの続きを話し始める。

煙と暮らし始めて分かったのは、
とにかくスケジュールの予定、やることが多い!
こんなにやることが多い中、煙は私と話す時間を作っていたのだろうか!?もしかして私と話す時間もスケジュールに組み込まれていたとか? そんなわけないか。


それよりも、煙は結婚式や披露宴のプランニングに物凄く気合いを入れている。ブルーナイトのオープニングパーティーやブルーナイト中の会場設備のことは全て煙が考えて計画していることは知っていたけど…



「結婚式ではウエディングドレスは白だ。なまえは白が似合う。俺は黒のタキシードだ。アクセントにキノコのネクタイピンを作れ」
「畏まりました」
「披露宴のお色直しは3回だ。」
『えぇ?』
「なまえは4回がいいか?いや、もっとか?」
『3回で!』
「披露宴は3回だ。その後のパートナー紹介パーティーは…」


「ウエディングケーキは5段だ。キノコをペーストにして生地に入れろ。なまえ、飾りのフルーツに希望はあるか」
『無い』
「ならば季節の果物を余るほど乗せろ」
「はい、ボス」
「それから披露宴の会場だが、壁の色は…」



こんなに細かいなんて!!

担当の人は持っているメモ帳に上から下まで煙の要望を書き綴ってはページを捲って、を繰り返している。可哀想。これじゃあこの数十分でメモ帳一冊使い切っちゃうんじゃないかな。


披露宴で出す食べ物がやっと決まった。
かと思えば次は車に乗って移動だ。

決めているのは全て煙だから、私は煙の後ろに続いて歩いて、時々尋ねられるからそれに答える。それだけなのに疲れた!


『はあ…』
「何だなまえ。もう疲れたのか、今日はまだこの後もやることが山程あるぞ。この後は式中と披露宴で流す曲を決める。オーケストラの指揮者と会うからお前も挨拶くらいはしろ」
『はぁい…』
「その後は新婚旅行の行き先を決めに…」
『え、新婚旅行行くの?』
「あぁ。何か候補はあるか」
『地獄』
「却下だ。
その次は屋敷に戻って披露宴の会場設営のもの達と…」
『ねぇ、煙。そんなに頑張ったらしんどくない?』


揺れる車の中。隣に座る煙と目が合う。


「しんどいわけないだろう。」
『どうして?』


煙ほどの人ともなればこんなに沢山の仕事にも慣れているのだろうか。それとも結婚式には生死が付き纏わないから気軽に出来るとか。それでも決め事が多くて疲れてしまうのに。


「どうしてって、お前との結婚式だからだ。
人生で一番完璧な式にしたいに決まっているだろう」


まさかの回答に私は鳩が豆鉄砲を食らったかのように目を点にする。


『私の、ため?』
「そうだ」


疑いのない真っ直ぐな答えに、私はつい涙が出てしまった。


「な、なんだ。泣くほど疲れたのか。そんなに疲れたのならお前を屋敷に一度送って…」


まさか煙がこんなにも私のことを思ってくれていたなんて。

正直、私は煙よりも悪魔の方に魅力を感じていた。伴侶にはなるものの、形だけの夫婦だと思っていたくらいだ。結婚式だって、形式上だからそんなに気合入れなくていいのにと思っていたのに。


『煙、私も一緒に考えるから…!』
「あ、あぁ。でも無理はするなよ」
『ありがとう』


どこまでも私には優しい人。
きっと結婚式当日までずっとこんな細かい分刻みのスケジュールで、細かい要望を煙が出してそれに私は付き合っていかなければならない。

それでも以前では見えなかった煙の良い所を見つけていって、少しずつ好きになっていこう。これは友達の意味では無く、恋愛の意味で。



後日、いつも煙に毎朝スケジュールを伝えにくる担当の部下の人が私の元にやってきた。


「なまえ様、新婚旅行のことですが」
『あぁ、新婚旅行ね』
「夜の営みの時間はどれくらいのお時間を取っていればよいでしょうか?」
『え、あ、はぁ!?』
「あ、もしかして夜だけでなく、次の日の朝も予定に入れておいた方が、」
『え、煙〜!?!』


やっぱりこんな生活、私には無理!!



end 2020.11.03