Nutter's class


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 閉校時間にまでなると空のほとんどが暗くなる。進学のために一度街を出ていった四年前よりは街灯の数は増えたけど、それでも商店街のある大通りを外れると急に治安が悪くなるから、それが心をざわつかせて駄目だった。変な人とかに後ろから刺されちゃったらどうしよう、なんていくら法整備が疎かでもさすがに少しは人目のある街の中心部では起こらないだろう想像に私はどきどきしながら大通りの横道を歩く。足を動かす度にがさごそと擦れるビニール袋の音を聞きながら、嫌だなぁ怖いなぁと言いながら私はどこかで不審者を探していた。それがいけないことだとは、よくわかっていたけれど。
 でも実際にはなにごともなく私は家に帰ってきてしまう。一人暮らし用の扉一枚しか守るものがない安い作りのアパートは、先月の初めから引っ越したばかりでまだ荷解きが終わってないままで狭くて汚い。靴箱もない小さい土間にパンプスを脱ぎ捨てると私はリビングのスイッチを着けた。からっぽの花瓶と指導案の下書きが散らばった食卓テーブルの上に買ったビニール袋を置いて私はため息を吐く。さすがに家にまで帰ってきて電気を着けたところまで行くと、「そんな気」はもうなくなっていた。ただの疲れた教員に戻った私はストッキングを真っ先に脱ぎ捨てて部屋の隅の洗濯カゴの中に放り込んでしまう。ジャケットも本当は脱いでハンガーにかけるべきだったけど、疲れた私にその元気はもうなかった。私は空いた椅子に腰をかけて首を擡げて天井を眺める。細かい模様のついたタイルをなんの気なしに見上げて、やっと吐いた一言が「疲れた」だった。最近のルーティンになってしまった行動に私は一人でへらっと笑う。あと五分、あと五分座ってたらさすがにお風呂に先に入って、それから今日は本棚をなんとかしよう。そう自分に言い聞かせて私は重い瞼をふっと閉じてそのまま散らかったテーブルの隅に片肘をつく。教員採用試験の勉強と、卒業論文の中間発表が重なっていた去年もこんな感じだったし、なんなら一昨年からも教育実習でこんな感じだった。小学校教員よりはやってることは多分マシ。教える教科は国語一択だし、生活指導も高校生ならほとんどいらない。だから、はっきり言って今が一番、慣れれば楽になる、と思う。多分島外で普通に臨時教員をやっている人達よりは恵まれている。六時で帰れているなら尚更。でも。でもね。

 「さすがに疲れた…」

 サイズが微妙に合わず床面積より一回りくらい小さいカーペットの上に転がり落ちてそのまま眠りに落ちたくなる欲望を私は堪えて「疲れた〜!」と一人暮らしのワンルームで叫ぶ。ちょっとだけテンションが高くって、私は一人でくつくつと笑っていた。疲れた。そりゃあ疲れる。実習以来急に教壇に立たされて英語を教えたその口で夕方には図書館の先生なんて二足の草鞋にもほどがある。それでも私はどこかが楽しかった。自由になった気持ちだったかもしれない。一人暮らしがはじめてで浮ついているというのもあるし、何より社会人なり立ての今は慣れないことばかりで、その不慣れさがどこか楽しい。ここからルーティンを自分で作って生きていくんだと思うと、人生を歩んでいる感じがしてわくわくする。
 だからこうして机に頬杖をついてがっくりしているわけにはいかない。
 私は頬を両手で挟み込んで「よし」と大げさに決意する。買ってきた手提げをもう一度掴み上げて私は冷蔵庫の前にしゃがみ込む。野菜は上段、お肉と魚はケースの中。卵はちゃんと卵ケースのなかに移し替える。引っ越し当初に取り決めた自分ルールをきっちりと守って私は一つ一つを冷蔵庫の中に収めていく。食べたいから買ったというより作らないといけないという意識で買ってきたそれらを収めるまでに時間はそれほどかからなかった。私は食器をまとめているカラーボックスの上に置いていたエプロンを片手にシンクを睨む。正直なところとっても眠たくてやってられなかったけど、大事な特訓の時間を疲労ごときで無駄にするわけにはいかなかった。

 「彼」の好きなものは魚料理。
 彼自身は「そうでもないよ」って淡々と首を振るんだろうけど、私は幼馴染みが肉よりも魚が好きなことを知ってる。甘いものよりも辛いもののほうが好きで、味付けは薄味のほうが好き。卵焼きは甘めよりも出汁が多めに巻かれたネギが入っているものが好き。麺類ならうどんよりも蕎麦が好きで、パスタよりはラーメンが好き。でも別に洋食が嫌いなわけはなくて、お母さんがホワイトソースから作る鮭とほうれん草が入ったシチューはお気に入りだった。まだ私は彼と出会って六年くらいしか経っていないけど、きっと私は鈍感な彼よりもずっと彼の好きな食べ物を知ってる。
 細い骨ばった彼の輪郭を思い出しながら、私はフライパンの上でバターを溶かす。大丈夫、大学生のころ友達を実験た…頼りにして訓練した私の料理スキルは上がったはずだ。 昨日のうちに小分けに冷凍しておいたほうれん草を熱したフライパンの中に放り込んで、小麦粉を大匙三杯。さっさと放り込みながら私は「あ」と声を出す。幼馴染みのお母さんは、確かここに玉ねぎも入れていなかったか。なんだかそれだけの記憶違いでやらかした気分になりながら私は火を止めて玉ねぎを切ろうと冷蔵庫を開ける。でも駄目だった。それをするときっと火の通りが悪くなってしまう。

 「…大丈夫、大丈夫、本番は明後日だし、そう」

 私は頷きながら昨日のうちに焼いておいた鮭の切り身を冷たいままフライパンに放り込む。本番はまだ。今日は別に自分が食べるだけだから。大丈夫。そう言葉を繰り返して作る料理は事務的で、コンロに灯る火が色あせて見えた。 



 いずみが生まれてきた意味は、ひとをころすことにあるんだって。
 
 軒下にいた鼠の柔らかいお腹からはとくりとくりと真っ赤な血がこぼれていた。まるで公園の水飲み場からあふれてくるような血液を私は面白くて眺めていたんだ。和泉はどうして殺すの。貴方は生き物を殺す私を、まるで自分とは違う何かを見るようなこわばった表情で見下ろしていた。七歳児の私は、どうして貴方が私をそんな目で見るのかが分からなかった。何を悲しそうにしているのか、何を怒っているのか。和泉にはまるで分からなかった。和泉は貴方ときっと同じくらいの年のくせに、貴方よりもずっと幼かった。

 「いずみが頑張ったらねぇ、パパが喜んでくれるんだ!」

 あんまりよく覚えていないけど、と言いながら私は慣れた手つきで鼠の腹をナイフでちりっと裂いた。すっかり古くなって買い与えてもらえなくなったナイフは、思った以上に切れ味が悪くって私はそれに機嫌を悪くする。パパがいたときはいつも新しいナイフがあった。和泉はあんまり人を殺したときのことを覚えていない。覚えていないけど、でも和泉は人を殺すことが得意だった。和泉には人を殺す才能があるよ。はじめて「何にも分からなくなってしまった朝に」、パパがそう和泉のことを褒めてくれた。いつも和泉の頬を打った怖くて大きなパパの手が、はじめて震えたその手で和泉を撫でて褒めてくれたんだ。和泉は、それがうれしかった。大好きなパパに、たった一人の家族に、やっと家族と認められたんだと思った。

 「和泉はそれが楽しいの?俺にはとても、きみが楽しそうには見えないけど」

 【能力】で人を殺すたびに、私の記憶は七歳まで巻き戻る。
 何十回となく繰り返して、身体が七歳よりも大人になってから気が付いたことだった。十年間繰り返して、それでもなお学習せずにまだ七歳のまま時を止め続けている私を、貴方はいつだって子ども扱いはしなかった。本当は、本当は私だってわかっているんだろう。貴方はいつもそうやって、私のなかに善性を求めた。私の中にある、過去に対する疑問と絶望を貴方の声は震わせた。それでも私は、貴方から目を背けるように砂遊びに夢中になる子供のふりをした。死んだ鼠の赤い血は、もう黒く錆びて固まっていた。刺していたナイフも死後硬直のせいで抜き出せない。

 「楽しいよ。だって、パパが喜んでくれるもん。パパが、いずみを褒めてくれるんだもん」
 「きみの父親はもう居ない」
 「……」
 「【前】の和泉が、言ってたよ。自分は、父親に道具扱いされていたんだって」
 「覚えてないことを、言わないで。わたし、わた、私は、ぱぱに」

 分かっている。七歳の、はじめて能力をつかったあの日までの記憶は確かに残っていた。
 和泉はパパに殺されそうになったんだ。ママが死んでしまってから、パパは和泉と二人で生きることが辛くなったんだ。ママに似た和泉をパパは怖がっていた。パパは和泉に居なくなってほしかったんだって。だから、パパはいつも和泉を叩いた。パパは和泉がいると仕事もまともに出来ないんだって、ちっちゃい和泉と二人で生きるのはつらいんだって、泣きながら和泉に死んでほしいって言ったんだ。でも和泉はこわくて、こわくって、でもパパはだいすきだったから、パパがいなくなったら和泉は独りぼっちだから、だから、和泉はがんばってパパを殺さないようにしたんだ。そうしたら、パパは喜んでくれた。よろこんで、和泉に「一緒に生きよう」って言ってくれた。
 本当は知っていた。人を殺すことも、生き物を殺すこともいけないことだ。この世界がどんなに狂っていても、和泉は殺されたくない。和泉が殺されたくないように、みんな本当は死にたくなかった。でも、和泉は和泉のことが本当は一番大切だったんだ。だから、和泉はだいすきなパパといる世界を殺されることが、ずっとずっと怖かった。でも、本当に怖かったのはね、ほんとうは。

 「ほら、家に帰ろう」

 私よりもすこしだけ身長の高い貴方が、迷子の子供みたいに地面に座り込んだ私に手を差し伸べる。私よりも一回りくらい大きなその手は、私と違って爪先まできれいだった。それが恐ろしくて、私はぎゅっと自分の両手を握りこむ。すると貴方は、少しだけ考え込むように上を見上げて、それから私と視線を合わせた。その瞳の深い藍色が、ひどく心地よくて、暖かかった。

 「大丈夫、和泉は悪くないよ。和泉は本当は優しい奴だから、きっと大丈夫」

 私は自分が、世界から外れているんだって知っていた。ちょっとずつ、ちょっとずつ壊れていってるんだって分かっていた。抜け出さないといけない。正しくありたい。和泉は、和泉が思うような女の子になりたい。戻れないところまで行ってしまうことが、いつだって私は恐ろしかった。そんな私を、貴方はいつも光輝く帰り道に連れ出してくれたんだ。貴方と一緒に帰ることは、いつだって私を望んだ私のいる場所に戻してくれた。

 「――うん、亮ちゃん。和泉、もう殺さないよ。殺したくないよ」

 年上のお兄さんもとい、幼馴染みであり、家族である貴方――亮ちゃんが「うん」と私の金色の髪の毛をくしゃりを撫でてほほ笑んだ。灰色の街の中で、貴方と歩く帰り道はいつだって色鮮やかで、あの日から、彼だけが私の生きる理由だった。




 南区の高台地域に新設された実験校、私立白崎学園で彼は先生をしている。
 一緒の高校にならなかったのは教員の需要の問題もあったけど、単純に気持ちの問題だった。もちろん一緒に先生をやれるならそれはそれで幸せなことだっただろうけど、私が亮ちゃんにくっついて同じ高校を志望したと知れば、亮ちゃんはきっと私を子供みたいな目で見てきただろう。私にとって亮ちゃんとは幼馴染みでもあり、だいすきなひとでもあったけれど、それ以前にお兄さん同然の存在だった。そんなお兄さんに、いつまでもかわいい妹のような扱いをされることはごめんで、軽蔑されることはそれ以上に問題だった。だから私は背伸びをする。ちょっと距離が離れているほうが、私だって思ってもらえるような気がして。
 
 (なんてね、あなたがどうかは知らない)

 土曜日の夕方。きっと新設校にいるおかげで仕事量がさぞ多いだろう彼の帰りを私は待つ。校門から少し離れた先にある大きめの公園は、この学園に通う生徒たちにとって将来は通学路として定番になる予定の広い通りが坂の麓まで続いている場所だ。私はそんな目立つ通りならばきっと彼だって通りかかると踏んで、道の横に並ぶベンチに腰を下ろす。昼には下校している関係で、生徒らしき影は見当たらない。けれど時代の流れも私が子どもの時よりは進歩したみたいで、夕暮れ少し前の晴れた空の下には、毛並みのいい大きな犬を歩かせる親子や、中心部から来たんだろう子どもたちがボールを持って原っぱのほうへ駆けていった。まるで島の外にいたときと似たような光景に、私は少しだけ置き去りになったような気持ちになる。あまりに普通の「幸せ」に、私はすっと目を細めた。昔がよかったなんてことは間違ってもないし、今が一番この街の理想なのはよく知っている。知っていてそれが痛いのは、私がまだ普通じゃないからなのか。生まれつきに変えられないと思っているからか。それとも。

 「…和泉?」

 ふと上から降ってきた声に私は待ちわびた顔で見上げてしまう。別に約束なんてしていなかった。それでも律儀に私を見つけて声をかけてくれた幼馴染みに私は「亮ちゃん」と声を上げる。亮ちゃんは訝しげに少しだけ眉をひそめながら「どうしたの」と私を見下ろしていた。確かに彼からすればどうしたと聞きたくもなるだろう。公園と学校くらいしかないこの辺りにわざわざ夕方に私がやってくるなんて、それこそ理由はあなたひとつしかない。

 「さ、最近忙しそうだったから。元気かなって思って」

 久しぶりに見上げた彼は、相変わらずどこか疲れたような表情をしていた。それでも久しぶりに視線を合わせた藍色の瞳の穏やかなこと、整った輪郭線の美しさに私は見とれてひどく高い声を出してしまう。ちゃんと明るくできてるかな、ちゃんと、ちゃんといつも通りに振舞えているだろうか。私はいかにも「心配しています」の体だけを頑張って装う。そうして彼は、ああ、とわずかに嘆息してそれから手に抱えていたスーツのジャケットを抱え直した。そのしぐささえもどうしてかどこか色っぽく見えてどきっとしてしまう。片思い。恋は盲目。そんなよくある言葉が頭の中の冷えた部分をすいっと撫でた。だって幼馴染みが久しぶりに二人きりになったそれだけで、気まずいほどに緊張しているのは私だけだと知ってるから。

 「まあ、元気ではいるよ。あっちにいた時よりも余裕はあるし。和泉は?」
 「へ?」
 「和泉はどう?俺はまだ研究授業と補佐程度しかしてないし仕事自体は正直きみより楽だから。そっちのほうが大変だと思ったんだけど」
 「あ、…うん。実は外から続々資料が届いて。私もほとんど授業より司書教諭のほうの仕事ばかり優先してるかな。昨日なんて、」

 学生時代のキャンパスで当たり前のようにそうしていたことを思い出して私は彼の隣に並び立つ。私よりも頭一つ分は身長が高い彼とは相変わらず見上げないと視線が合わない。私は会話の糸口を見つけたことをいいことに、いかに自分が主に文系の先生がたや管理職にいびられているかだとか、そんなことをちょっと面白おかしく大げさに私は語ってみせる。実際本当に本の一冊一冊のデータをカードに書いて裏表紙に貼り付けたり本棚の整理がついたと思ったらまた増える本に辟易していたから、あながち愚痴も嘘ではなかった。もちろんそればかりしゃべっていたらただのネガティブな女だから、生徒が可愛いって話だってする。昨日は二年生の子と図書室に飾るポップを作っていたこと。その絵が上手だったこと、だとか。そうしてだんだんと話すことを私は失っていって、ちょっとずつ冷静になっていった。考えてみれば、見ないと分からない絵の話なんてされたって彼は頷くことしかできなかっただろうに。

 「あ、ごめんね。私ばかり喋ってた。ねぇ亮ちゃんは?学校で良いこととかあった?」
 「良いこと?和泉ほど愉快な思いはしてないと思うけど。ちょっと待って、考えるから」
 
 そうして私が出した切り札、「話のネタを彼に振る」戦術に彼は優しくも乗ってくれる。考えている間だけ少しだけ彼の歩く速度が速まって、私はちょっとだけ小走りになった。それも一瞬で終わったのは、私がそんな挙動になったことを彼がすぐに気づいてくれたからだった。そういうところが、ひどく優しくて私は彼のことが好きだった。

 「ああ、そうだ。あった。良いこと」
 「ホント?例えば?」
 「あの子の妹さんがいた。パッと見てすぐに分かったよ。向こうも俺のことが分かったみたいで、色々情報が共有できた」

 僅かに、あなたの声色が希望で上擦った気がした。
 私は「そうなんだ」となんとか言葉を絞り出す。もう少し一緒になって喜んであげるべきだったのに、並んで歩いているはずだったのに、妙に後ろに置いて行かれたような気がした。心臓が冷たくなっていく。だから、どうしても言葉は平べったくなった。ダメだ。聞かないと。聞いたのは私なんだから。

 「それで、妹さんとは、どんな話をしたの?」
 「まあ詳しく言うと長くなるんだけど、でも今一番この六年で希望の持てる状況であることは確かだよ」
 「……」
 「美沙ちゃん、生きているんだって。本当に諦めなくてよかった」

 かみしめるように言葉に出した亮ちゃんの表情は、はじめて私が彼と会った時くらいと同じくらいに感情があった。淡々として表情に乏しかった彼に、唯一感情を与える人。その私ではない別の女性の名前に、私はどんな言葉を出せばいいのかが分からなかった。おめでとう、よかったね。もう少しでまた会えるね。亮ちゃんのずっと大好きだった人が、生きていて本当によかったね。私はそう、言うべきだった。

 言えなかったのは、本当はこの後ご飯でも、と誘いたかった下心がワンルームの中に残っているから。

 六年前からずっと染みついているまともに会ったことさえない女性の影に私はずっと、片思いを脅かされている。はじめから敗北の決まっている片思いだ。私が彼に、亮ちゃんに出会ったあの時から、亮ちゃんの心の真ん中にはずっとただ一人の彼女がいる。いなくなってしまってからも、ずっとずっと、亮ちゃんの心の真ん中から「天野美沙」が消えたことはない。
 だから、ちょっとでも期待して、私が代わりになろうなんて、思ったこと自体が間違いなんだ。

 「…よかったね、亮ちゃん」

 死んでいてくれたらよかったのに。死んでいるとさえ分かったなら、もしかしたら、彼は私だけの彼になったかもしれないのに。
 はじめて彼女の名前を聞いたあの日から、ずっと抱え込んでいる嫉妬を私は苦く呑み込んだ。

 私はいつだって、あなたの世界のお姫様にはなれない。



 To Be Continued.

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