Mourn’


▼ Prologue:M

 「100年の愛を誓えるか」と、不毛な質問をしたことがあった。
 問いかけた相手は「そんなのは無理でしょう」とそっけなく答えた。私もきっとそんなことは出来ないと思っていた。「100年愛している」――なんて、言葉の美しさに騙されるほど私たちは素直ではなかった。

 そのときの私には100年も愛せるような人なんていなかった。まだ十三歳だったから、当然かもしれない。愛を語るには早すぎる歳だと、自分でも何となくわかっていた。まわりの女の子たちは携帯電話で読む小説の話をしてみたり、彼氏と別れた一週間後にまた好きな人が出来た子がいるだのとなんだかちょっと下世話な話をして盛り上がったりしながら、愛だ恋だを語っていたけれど、私はその手の話には上手に入ることができなかった。恋はわかるけれど、愛だけはどうもわからなかった。浮いた話になるたびに耳をふさぐ私を見て、女の子たちは「本当に子供だね」と私を馬鹿にするように笑った。こんなふうに恋の話をすることが恥ずかしくて仕方なかった。
 もちろん恋愛話が嫌いと言うわけではなかった。たぶん、私は普通よりも恋愛に対しての理想が高かったんだと思う。幸せな物語から悲しい物語まで、色々な本を見つけては読み耽った。そのたびに出会う王子様に私は惹かれ、理想に焦がれた。ああ、こういう人に愛されるお姫様はなんて幸せなんだろう!私もこんな物語のお姫様になれたらいいのに、私にも運命の王子様がいたらいいのに…なんて、そんな夢想を抱きながらいつか現れるかもしれない運命の相手をひっそりと私は待ち焦がれていた。


 きみは私の理想の王子様ではなかった。
 こうもはっきり言ってしまうと少しきみに失礼だね。でも本当にそうだった。きみは私の理想とは何一つ合致していなかった。だけどきみ以外にいないんじゃないかって、なぜか不思議と私は確信していた。
 趣味が一緒で、だから趣味の共有が出来る関係になれるんじゃないかという期待から最初は始まった。次に、きみが何を思っているかをもっと知りたいと思った。きみが少しだけ笑ったところを見て、もっときみの笑顔を見てみたくなった。きみとは境遇も一緒だと知って、私のことを深くわかってもらえるんじゃないかと期待した。きみが泣いている姿を見て、そうしてもっと私にさらけ出してくれたらいいのにと願った。

 きみのことが好きだった。
 きみを愛せるかと聞かれると正直よくわからなかったけれど、でも、一緒にいるとだんだんそう言うものも芽生えてくるんじゃないかと信じていた。きみを愛してみたいと思っていた。――きみに、愛されたいと思っていた。
 許してなんて言わない。憎んでくれたって構わない。こんな身勝手な魔法をかけた私を、「愛」という大義名分で傷つけてくれたって構わない。逆に反吐が出るくらい甘やかしてくれたって構わない。私はそのすべてを、「愛してくれている」という言葉で片付けて、その分きみを愛していこう。

 だから、どうかこれからはじまる私との愛の物語を、受け入れてはもらえないだろうか。


 「永遠に囚われろ」


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