Novels/Crescent Winter
▲広報用Twitterあります
「愛」してるって俺に言ったくせに、今日は、いったい誰と会っているの?
京介、誠、篤志、それとも俺の知らない人?
あなたが、嬉しい時、悲しい時、楽しい時、つらい時、今日、あなたと一緒に居る人はいったい、どれだけ、あなたの時に立ち合えたの?俺はいったい、どれだけ、あなたの時に立ち合った?
俺はあなたの何番目?

今日は俺の家に来てくれるの?いつもみたいに、連絡なしに俺の家に来て、唇に俺の名前をのせて、笑ってくれる?そして、優しい目をして、腕を背中に回して、優しくて残酷な言葉をその唇にのせるんでしょ。
この言葉で、俺の心を抉って、壊して、空いた穴をあなたで埋め尽くしていくんだ。
ねぇ、あなたにとって俺はどれだけの価値があるの?

一人分の体温しかない、部屋の中で電子音が響く。煩いなぁ、なんて思いながらディスプレイを覗く。ディスプレイは一人の名前しか表さない。内容なんて見なくたって分かる。
『ごめん』『今日は会いに行けない』『愛してる』
ねぇ、本当に思ってんの?俺のことを愛してるの?
だったら、今すぐ会いに来てよ、俺だけだって言ってよ、会いたいんだよ
「あ『い」たい』んだよ。

返信できないのに、見続ける画面が表示を変える。いったいなぜと思うのは、「今」に慣れてしまった俺のせいなんだろうか。

『欲しいものをあげようか?』『今なら何だってあげられるよ』『一番欲しいものをさぁ』『一言で』

驚きのあまりに、うまく、意味が分からない。
欲しいもの、なんて分かんないよ。
混乱状態の頭の中がショートしそうになっている。
何を言えば良い?どう言えば良い?

「あいたい」の一言が伝えられないのにどうすれば良い?
返信できないで画面を見続ける。打っては消して、打っては消してを繰り返しているうちに、誤って送信ボタンを押してしまった。
どうしよう、送ってしまった

混乱状態を通り越して、もはや、錯乱状態、そんな状態でもう一度、メールもできるわけがない

部屋のドアが乱暴に叩かれる。そんに叩いたら大家さんに怒られる。それ以前に近所の人に迷惑だ。
開けたくないな、でも開けたいな
だって、叩いている人は、きっと笑ってる。そして、部屋から出てきた俺を『愛』すんだ。
- ナノ -