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もう、何回太陽が昇ったか、もう、何回季節が廻ったか、僕は知らない
あなたに『ここで、待っていて』と言われたから、僕はここで待っている、でも、あなたは来ない、それでも僕は待っている。
月の下、花が咲いている、この寒い夜にひっそりと蕾を開いた、その花に蝶だろうか、蛾だろうか、僕には分からない、それが、止まる。
羽に月の光が反射して、白く光る。
触れてみたい、そう、思った。だだ、それだけだったのに!!
手の中には砕けた羽、それはもう、月の光を反射しない、潰す気なんてなかった、殺す気なんてなかったんだ...
ねぇ、どうして?
朝日が昇った、夜は寒かったのに、早朝は涼しかったのに、陽が昇ると、暑い、目を開けていると、目が焼かれていくようだ。痛い、痛い、痛いよ。その場に蹲って、体を丸める、次は背中が焼かれていくように感じて、痛い、痛い、苦しいよ。
空に大きな鳥が舞った
僕の上をぐるぐると回って、日陰をつくる、体の痛みが引いていく。
心地好くなって、僕は深い眠りに堕ちた。
目を醒ましたとき、陽はすでに昇っていた。
羽の焼けた、大きな鳥が事切れて、冷たくなっている。
そっと、手を伸ばす。
ねぇ、どうして?どうして?あなたは来てくれないの?皆、どうして居なくなっちゃうの?ねぇ、どうして?
それから、どれ程たっただろう。何回、陽が昇っただろう、僕は分からない。
夜になった、月は満月だ。今までに満月になったことがあっただろうか。ぼんやりと月明かりで照らされた、僕の目の前には、咲く筈の無い、咲ける筈の無い、あなたが好きな花、触れたい、けど、触れられない、壊してしまうから、殺してしまうから。
見ているだけだったら、少しは長く、見ていられるだろうか、何も望まなければ、少しは長く一緒に居られるだろうか。蝶、蛾よりも、鳥よりも? 花から一つ雫が落ちた、まるで泣いているように、まるで、僕のように
雫を掬って、口に含む、辛い、苦い、甘い、酸っぱい、苦しい、寂しい、淋しい
ねぇ、さびしいよ。
今まで、堪えてきたものが溢れ出す、色々な味が、感情が溢れ出して、混ざりあって、濁って、くすんで、もう、何なのかわかんないよぉ
目から出てきた水は、くすんで、醜い
それでも、待っていて良いのですか?
それでも、あなたは来てくれますか?
「待っていて、良いですか?」
『ここで、待っていて』
そう、言われたから、だから、あなたがくるまで、あなたが来なくても、それでも、僕は待っている。
花からまた一つ静かに雫(ナミダ)が落ちた