First Kiss

ふたりの初めてのキスをテーマに
お相手:仁王雅治 / 幸村精市 / 日吉若 / 丸井ブン太 / 伊武深司 / 白石蔵ノ介 / 忍足侑士 / 芥川慈郎 / 忍足謙也 / 千石清純 / 向日岳人

※順不同

※リンクは貼っていないのでスクロールしてお読みください

※方言が分かりません

仁王雅治

 いつまで経っても緊張しいな彼女。肩が触れ合うたび、指を絡めるたび、平気な顔をしようとしているが耳の赤さを隠せていない。
 いままで気付いてないフリをしてやってたが、そろそろ可愛くて死にそうじゃ、なんてらしくもなく思う。
 ふとさり気ない瞬間、何だか込み上げるような急き立てられるような気持ちになって落ち着かなくなる。誰かを大切にすることがこんなにも難しいと初めて知った。
 ほら、今も。手を繋いで、恥ずかしそうに俺の目を見てはにかむ彼女に堪らなくなって、気付けば俺は手を伸ばしていた。
 ふに。親指でそっと下唇をなぞれば、「ひぅ」なんて声を漏らして、彼女は可哀想なほど顔を赤くした。
 ……勘弁してほしいぜよ。
 泣きそうで、けれどどこか潤む瞳に期待が混じっているような気がするのは、俺の都合のいい願望なんじゃろうか。

 ああ、もう、どうでもいい。
 衝動に突き動かされて、じっと瞳を見つめながらゆっくりと唇を重ねる。
 小刻みに震えている腕の中のこいつがどうしようもなく愛おしい。躊躇いがちに彼女が俺の制服をきゅっと掴んで、胸の奥がぎゅうと軋んだ。
 触れ合っているだけなのに唇も頭もあつくて溶けそうじゃ。どっちの熱かもうわからないけれど。

向日岳人

 思わず岳人は「はぁ!?」と素っ頓狂な大声を上げた。驚かせた張本人は「も〜、うるさい」と耳を抑えている。普段なら「お前のせいだろ、クソクソッ!」とキレるところだが、そんなことに構っていられなくて「な、なんて?」とどもりながら聞き返した。
「だから、わたしとキスしてみない?」
「はぁ!?」
 岳人はやっぱり同じ反応をした。まるで「辞書貸して〜」だとかいう風に平然と言われた言葉に目を白黒させる。冗談?夢?幼稚舎から仲のいい、幼馴染といってもいい彼女。
 こうして岳人のベッドでダラダラするのも日常だったのに急に非日常な空間に思えてきた。
 今更コイツとキス…今更……見慣れている彼女の唇がやけにふっくらとして、ピンク色にツヤツヤしている事に気づいて、岳人は慌てて視線を逸らした。
「なんだってそんなこと言い出すんだよ」「だってさぁ、友達みんなキスすませてるんだよ。どんなものか気になるじゃん」「彼氏でも作れよ」「好きな人いないもん。岳人も初めてでしょ?興味ないの?」
 オレのこと好きなワケじゃねーのかよ。分かってたけど呆れるし、イラッとする。
「ごめんごめん、イヤならいいよ。亮〜…は絶対ムリだろうから、ジローにでも言ってみる〜」
 またもあっけらかんと奴はそんなことを言う。反射的に岳人は「別にイヤだとは言ってねーけど」と素っ気なく呟いていた。何言ってんだオレ。けど「ほんと!?」と目を輝かして前のめりになったこいつの前で引っ込みはつけられなくなった。
 目の前の彼女が目をつぶった。急に背中に汗が浮かぶ。ほんとにするのかよ?頭の片隅ではそう思ってるのに、自然と岳人は彼女の頬に手を伸ばしていた。ぴく、と肩が揺れる。
 そのままゆっくりと唇を合わせる。身長は変わらないはずなのに、自分より顔も小さくて、首が細くて、頬が柔らかかった。甘い匂い。
 顔を離すと目を開けた彼女が「ちょっとドキドキするね。こんな感じなんだぁ」と明るい声で言った。ムードも何もねぇ。クソッと何かを悔しく感じながら横目で睨むと、赤くなって恥ずかしそうに俯いていて、岳人は心臓が急にドキンと痛んだ。なんだよその顔、クソクソッ。
 たぶん、この女のせいで変になってるんだ。だから、これはこいつのせい。衝動のままにもう一度キスをすると、ほんの少し潤んだ丸い目がぱちぱちと岳人を見つめた。
「…なぁ、彼氏には興味ねーのかよ」
 ぶっきらぼうに言うと、呆然とした彼女は黙り込んだ後、小さな声で「あるかも…」と呟いた。かもってなんだよ。でも、彼女の柔らかな頬は林檎みたいに赤くなっていて、岳人はやっぱり心臓がギュッとした。

千石清純

 彼が唐突にプレゼントだと差し出してきたのは可愛らしくラッピングされたマカロンの詰め合わせだった。デパ地下に置いてあるようなちょっとお高めのやつ。わたしは喜んで「開けていい?」と尋ね、彼が頷くとすぐに頬張った。甘くって本当に美味しい。前に好きだって言ってたの覚えててくれたんだ。
 それも嬉しくて、清純にも一緒に食べよ、と渡しながら「でも、なんで突然?」と問いかけた。
 彼は「美味しい?」と目を細めて、すごく優しく聞いてくるから質問の答えにもなってないのに、ドキドキしてうなずく。いつもみたいに「喜ぶ顔が見れてラッキー」とでもハイテンションに言うかと思ったけど、彼は静かにわたしの名前を呼んだ。
「好きだよ」
 シンプルで、毎日聞いている言葉。けれどいつもと違う。
 空気が変わって、あ、キスされる、と分かった。彼がそっと顔を近づけてくるのに抗わずに目を閉じる。唇が数秒触れ合って、彼の吐息を感じた。それはとても長い時間に思えた。誰かとキスするのは初めてじゃないけど、こんなにそっとキスされたのは初めてで、照れくささと、喜びと、安堵で胸がジーンと熱くなる。
 わたしは不安だった。お互い初めての恋人じゃないし、清純はノリが軽いのに全然何もしてくれなくて、わたし達はまだ手を繋いだことしかなかったから。
 そのままギュッと抱きしめられ、彼の体温を感じながら肩に顔を埋めた。彼の心臓が早くなってることに気付いて嬉しくなる。清純もドキドキしてくれてるんだ。
 腕を背中に回して「うれしい」と伝えると、照れたように彼が笑った。
「実は今日は、俺たちがデートして三ヶ月記念日なんだよ」
 わたしは彼を目を丸くして見つめた。付き合ってからは3週間くらい経つけど、デートしてからなんて数えてすらない。
「だから今日君とキスしたいなって思ってたんだ。叶ってラッキーだなぁ」
「何それ、ロマンチスト」
 嬉しいのに誤魔化すように可愛くないことを言ってしまう。でも清純は気にした風もなく「初めてのキスは思い出に残るものになって欲しいからさ」と頬を掻いた。何それ、とまた心の中で呟く。初めてじゃないって知ってるのに。
 前、キスしないの?と聞いた時、大事にしたいから、と答えた清純。それ以来何回か甘い雰囲気になった時も何もなくて、けれど今その不安が全部溶けて、代わりにわたしは泣きそうになってしまった。
 ねえ清純、たぶん思い出に残るどころか、一生忘れられないと思う。好きな人に大事にされるということが、こんなに幸せだなんて知らなかった。

幸村精市

 ふたり並んで花壇の世話をする、この時間が好きだ。
 幸村は花を見るふりして、こっそり彼女の横顔を見つめた。彼女はきらきら目を輝かせて、汚れるのも構わず楽しそうに花を愛でている。
 うれしかった。自分の好きな人が、自分の好きなことを楽しんでくれるのはぽかぽかしていい気分だ。
「ね、見て」
 彼女が振り返った。「蕾が膨らんでる!」と無邪気な笑顔。彼女は花みたいだ。幸村はフフ、と笑った。「ほっぺたに土がついてるよ」「ええ!?」
 彼女は慌てて顔を拭うけど、土を触っていた手で擦るものだからますます汚れていく。
「じっとして、とってあげる」
 くすくす吹き出してそう言うとちょっぴり罰が悪そうに眉を下げるのが可愛かった。
「動かないでね」
 ほんの少し悪戯をしてみたくなった。彼女の頬を両手で包み込み、すり、すり、と指で撫でる。もちもちで柔らかくて、自分と同じ生き物とは思えなかった。
「と、取れた?」
「まだ。もう少し…」
 触れている頬が熱かった。
「くすぐったいよ……」
 熱に浮かされるようにして、ふたりは唇を合わせた。彼女が花じゃなくて良かった、と幸村は思った。そうしたらきっと、こんな幸せなことできないから。
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