愛を紡ぐ幼い唇


「わたしは、あなたが、すきでした」
 私の腕の中で女はぽつりぽつりと私に語る。しかし、聞き慣れたはずの女の声は、味気ない機械音でしかない。
 彼女の素体は著しく損傷している。頭からオイルが流れて、ビシャビシャになっている。手足はない。豊満な胸もすっかり壊れて、中味を剥き出しにしている。だが、幸い頭部はきれいだ。
「わたし、さい……しょはあなたのこと、きらいでした、けれど、わたし、あな、たにやさしくし、てもらえて、うれしかっ、た、から、」

 命のないからだから、命の失われてゆく音が鳴り響く。ぎいいん、ぎいいん、彼女の中で動力源が止まる音だ。
 この娘は、私にとっては世界を手に入れるための道具なのである。今壊れてもらっては困るのだ。
 男は、彼女が壊れてゆくことを厭う理由を無理矢理に脳裏でこじつけた。彼女に対する感傷を押さえ込もうとしていたのだ。

「もういい」
「わたし、わたし、」
「もういいんだ、眠っていなさい」

 重いからだを抱き上げて、女を連れて行く。華牢がいれば、きっと直せるだろう。

「わ、たし、あなた、を」
 あいしていたわ。
 彼女の唇はそう動いて、そののち、とうとう音を出さなかった。



を紡ぐ幼い唇



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「華牢」の戦中サイドショートです。
お題はAコースさまよりお借りしました。

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