怒ってるんだけど




「兵太夫と浮気して楽しかったか?」
普段じゃ絶対聞けないような、感情を殺した無慈悲な声。
「…ん、ちがっ」
答えようにも、はっきり答えられない。怖くて、気持ち悪くて、それなのに気持ち良くて。


昨日、せっかくの休日だからと虎若と町に出かける約束をしていた。久々の学園外のデートだし嬉しかった。
なのに…、虎若の馬鹿!
こんな時に限って学園長のお使いを頼まれるだなんて。力仕事だったらしいから、学園長も虎若と団蔵に頼んだろうけどさ。
すごくむしゃくしゃして、最初はエグいからくりを作ってたんだ。
でも夜遅くになっても虎若は帰ってこないし、いい加減寂しくなって。
それで、兵ちゃんと慰めあいっこしたの。お互いの前を触りあっただけだよ。
兵ちゃんも団蔵で遊んでやろう("団蔵と"じゃなく"団蔵で")としていたのに、
お使いでいなかったからイライラしていたみたい。
悪い事をしたつもりはなかったんだ。
だからこんな事になるだなんて微塵も思ってなかった。


授業の間はいつもと同じで何もなかった。放課後になってから委員会で使う飼育小屋(といっても一件の家並にでかい)に呼び出されて。
そこでいきなり服を剥ぎ取られ、身動きとれないよう帯紐で腕や足が縛られた。
抵抗はしたものの、鍛練馬鹿なだけある筋力には流石に敵わない。

そして、濡らされる事も解される事も無しに押し込まれた。
俯せの状態で腰だけ突き上げた姿勢。
それで後ろから無遠慮に腰を打ち付けられて。
「あ、あ、虎……、もう止めっ」
痛くて涙が出そうなくらい辛いのに、馴れのせいか素直に反応してしまう自分が疎ましい。
「まだ入れただけだぞ」
あんまりな言葉に首だけを回して虎若を睨んだ。けれど同時に後悔した。
「…っ、」
意地汚い笑みを浮かべていたら、罵倒することくらいできたろうに。
でも虎若は全くの無表情で、僕を見てなんの反応もしてくれない。視線だけが射殺さんばかりに鋭くて 我慢ならなかった。
「なん、で。こ…な事、」
虎若は無言のまま答えてくれない。
「兵ちゃん、とは」
浮気したつもりじゃなかった。と続けたかったのに、そこまで言いかけて一層強く揺さぶられる。
もう頭の中もどこもかしこもぐちゃぐちゃで、ただ虎若の名前ばかり呼んでいた。
めちゃくちゃに泣かされても呼び続けていた気がする。

「三治郎…」
しばらく好き勝手された頃。
くるりと身体を回されて、向かい合わせにされる。
「虎。僕…もう」
一度も触れられていないのに熱を持った中心は今にも達しそうで。
こんなに後ろばかりを攻められた事がなかったから、余計に苦しく感じた。
(イきたい)
「虎若、…お願い」
甘えたような声を出して虎若を見つめた。いつもならこれと首に腕を回して抱きつけば完璧なのだ。
でも今は身動きがとれないから、そのぶん目一杯見つめて、そして頭を鍛えられた胸板に擦り寄せる。
大丈夫。
優しい虎若なら、またいつもみたいに頭を撫でたりしてからイかせてくれると思った。

だがしかし、絶頂の期待も脆く崩れ去ることになる。

「俺、怒ってるんだけど」

一瞬で背筋が凍った。
「何で、気持ち良さそうにしてるんだよ」
限界を迎えそうな中心をきつく握りこまれる。ああ、僕はなんて事をしてしまったんだろう。今更ながら崖の淵に立たされたような気分になった。
握りしめられた自身は解放されないまま、虎若は何度も僕を突き上げては欲をぶちまける。

(一番しちゃいけなかったのは…)
虎若を怒らせてしまった事。いつも滅多な事じゃ怒らないから、と油断していたのが仇となった。
きっと骨の髄まで喰われるに違いない。
そう思ったけれど、後に悔やむから後悔というように もう後戻りは出来なかった。

「とら、あっ。もう、…許し、て」

虎若の怒りが鎮まるまであと何時間かかるのだろう。
ぐらぐら揺れる頭の中ではまともな考えすら成り立たなかった。







───







人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -