ぶっちゃけて結論から言うと、優飛は生徒会室に現れなかった。
もっと詳しく言うと、優飛ではなく、優飛の親衛隊隊長と副隊長が現れたわけで。

全力疾走からの汗プラス冷や汗をかいていた生徒会の面々のそのときの表情といったらもう。なんて表現していいのこれ、という感じだったとか。

優飛が来なかったことからの安堵と、俺たちに親衛隊を寄越すなんてという憤りが混ざって非常に微妙な表情を浮かべていた生徒会の面々。に向かってにこりと優雅な笑みを浮かべる親衛隊隊長と、無表情な副隊長。あと紙みたいな顔色をした村上(警護隊長)。


「さて、生徒会の皆様方。天使もとい、山田さまになんの御用でしょう?というかいくら生徒会といえども、公的な理由も無く私的に山田さまを呼び出すなんて言語道断。山田さまにお会いしたいなら、まずご自分のクラスの山田さま親衛隊代表に掛け合ってもらわないと。ちゃんと段階踏んでからじゃないと山田さまとはお会いできません。そういう規律を乱すような行為やめてもらいたいんですよね。今回は生徒会ということで仕方なく。仕方なくですよ?親衛隊隊長と、副隊長である俺が断りの挨拶に参りましたけど。今後はこのようなことが無いようにお願いします。山田さまを呼び捨てにした生徒会長は後でおぼえてろ」

優雅な笑みを浮かべた隊長の前に一歩踏み出し、無表情のままつらつらと述べる副隊長。
口調は丁寧だけど、内容はぜんぜん丁寧じゃない。
っていうかいま俺なんか警告された?と首を傾げるのは生徒会長である。


勇希の同室者が優飛であったことやら、優飛がくると思って全力疾走したことやら、結局優飛本人が現れなかったことやら。
生徒会の面々は、色々ありすぎて混乱していた。
簡単に言うと、優飛が来なかったことからなんだか妙な自信が沸き、結果。

「山田の親衛隊ごときが生徒会に口出しするとはいい度胸じゃねえか。」
「まったくですね。これだから親衛隊は嫌なんです。」
「ほーんとうざったいよねえ。ぼくたち生徒会なんだよお?わかってる?」
「親衛隊に入室許可は出していない。早々に帰れ」

吼えるほえる。ほにゃらららの遠吠えに聞こえないこともないくらい汗かいてるけど。

なんだか元気になってきた生徒会に、にっこりと笑みを深める隊長。目線を副隊長にながし、副隊長は無言で頷く。そして一言。

「生徒会の親衛隊みんな合わせた数より、山田さまの親衛隊の数のほうが多いのはご存知ですよね?」
「そ、それがなんだっていうんだ」

あ、ちょっとひるんだ。
ぴくりとも表情を動かさずに、副隊長は言葉を続ける。

「山田さま親衛隊に喧嘩を売るということですか?」
「うっ、・・・」

そして、無言のにらみ合い(生徒会からの一方的な)が続く中、がちゃりと生徒会室の扉が開いた。

「なに?取り込み中?俺を呼びつけておいて良い度胸だね。」


死神降臨


と考えたのは誰だっただろうか。
ちなみに山田さま親衛隊は女神降臨と思ってました。
艶とした黒髪を揺らして、小首をかしげる山田さま。に、さっきまでの貼り付けた笑顔と無表情はどこにいったと言わんばかりの笑顔を浮かべる親衛隊隊長と副隊長。村上は目の前に突然あらわれた女神(のような死神)に呆とした表情で見惚れている。

「ちょっと、聞いてr「お前が山田 優飛さまかっ?」」

転入生いいいいい!!!!
と心の中で絶叫。見惚れていた親衛隊三人ははっと我に返ると、村上が慌てて転入生の口を塞ぎ。隊長と副の二人はいまだ扉を開いた体制のままの山田の下へ駆ける。

副隊長が山田の押さえていた扉を代わりに開き、隊長が山田の前に恭しく膝を着いて手を差し伸べる。
何の疑問も挟まずに隊長の手を取り、二人にエスコートされて生徒会室に足を踏み入れる山田。
様になりすぎてて、初見の人間であればこちらが生徒会室の長だと思ったことだろう。

さっと親衛隊の取り出した豪奢な椅子に腰掛け、足を組む。
待て待て待て、それいまどこから取り出した?とは生徒会の面々の言である。
そんな取るに足らない疑問は捨て置き、山田はふうっと溜息を吐く。その様子にすら恍惚とした表情を浮かべる山田さま親衛隊。もはや宗教染みてて怖くなってきた生徒会。

繊細な彫りが施された肘掛に肘をつき、白魚の手に顎を乗せて山田は生徒会を見つめる。

「それで、林原?」

名指しされた生徒会長の肩がビクリと飛び跳ねる。
そんな林原に、山田が微笑みかける。

余談ではあるが山田の麗しい声で個人名を呼ばれるなんて、と親衛隊の三人はギリギリと音がしそうな顔で生徒会長をにらみ付けていた。生徒会は顔を青くしたり赤くしたりで忙しいようだ。

「な、な、なんだ!?」

どもる生徒会長。山田は笑みを深めて、優雅な仕草で床を指差す。

「お座り。」
「!?なっ、なななな、!!?」
「おすわり」

山田の笑顔の圧迫!生徒会は1万のダメージ!ちなみにヒットポイントは100である。オーバーキルにもほどがある。
人によって効果が違うらしく、親衛隊の3人は自分が言われたわけでもないのにお座りした状態で恍惚とした表情を浮かべていた。
村上に口を押さえられていた転入生ももろともである。これだけは同情すべきかもしれない。

どうやら一発昇天という意味では同じ効果のようだった。

うぐぐぐ、と耐えていた林原も、山田がにっこりと小首を傾げた瞬間に崩壊した。
よろよろと山田の前に近づき、崩れ落ちるように床に座り込む。

薄紅色の唇を吊り上げて、うなだれる林原の首筋につい、と指を這わす。
そのまま顎に持っていき、無理やり顔を自分に向けさせる山田。

生徒会メンバーの顔は悲壮感漂っていた。生徒会長は色々崩壊したのか、壮絶に美しい山田の微笑みの前に自失しかけている。
そんな状態であっても手を緩める気は無いらしく、山田は林原にぐっと顔を近づける。

「あんな呼び出し方をするなんて、教育が足りなかった?」

睫毛さえも触れ合えそうな至近距離。
吐息が唇に当たって、もはや。

「す、」
「す?」
「すいませんでしたああああ!!!!」

生徒会室を通り過ぎ、フロアに響き渡る林原の悲痛な叫び。
生徒会長以下生徒会メンバーの顔は涙でびちょびちょであった。

こうなるまで一体どんな過去が、村上が非常に羨ましそうにしていたことだけ明記しておく。


その日生徒会は一度崩落したとかなんとか。
転入生はおすわりに巻き込まれて頭を強打して気絶したとか何とか。





死神の足音。後
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