ポンポンポーン、と音階を奏でる放送の音。
休み時間ということも手伝ってお喋りに興じていた生徒たちは、口を閉じてどの教室にも備え付けられている校内放送機器を見上げる。

「俺、生徒会長の林原が命じる。」

唐突にはじまった放送。
聞き覚えのある美声に、一瞬ざわりと空気が揺れる。
しかしすぐに静寂を取り戻し、生徒たちはじっと生徒会長の言葉を待つ。


「今から名前を読み上げる生徒は、至急生徒会室に来い」

ざわり、先ほどよりも大きく空気が揺れる。
生徒たちは固唾を呑んで、読み上げられる名前に耳を傾ける。

しばしの沈黙。

・・・・沈黙。

・・・・。

・・・・・・・・・・・・。



・・・ええと、名前は?

と、あまりの沈黙の長さに固唾を呑んで待っていた生徒たちが首を傾げる。
放送が入っている時特有の小さなノイズが聞こえないことから、どうやら放送は切られているらしい。

「・・・生徒会長命令って言ったよね・・・?」
「うん、・・・名前読み上げるっていったよね・・・」

首を傾げる生徒たち。
ざわざわと揺れる空気。

「・・・に、2年A組の山田 優飛。生徒会室にこ・・・くるように。」

沈黙を保っていた放送機器から、再び美声。
まあ。

「どもってた・・・」

声は盛大に震えていたが。
しかも少し口調を改めていたが。

おそらく学園でもトップクラスの人気を誇る優飛の名前が読み上げられたことで、生徒たちのざわめきは最高潮に達していた。

山田さま親衛隊は眉を顰めてコソコソと教室の隅で言葉を交わしていたが。
まあそれは置いといて。

沈黙の間の放送室ではというと。


---------------


「俺、生徒会長の林原が命じる。」

自信たっぷりに伶がしゃべる。
副会長をはじめとした生徒会メンバーはうんうんと満足そうに頷き。
途中で合流した風紀委員長は勇希にちょっかいを出しつつ、なにをするのかと首をかしげ。
村上はひとり嫌な予感に苛まれていた。

「今から名前を読み上げる生徒は、至急生徒会室に来い」

そこまでしゃべって、伶の動きが固まる。
しばしの沈黙。
首を傾げる放送室内の面々。

やっと動いた伶が、放送のスイッチを切る。
そして振り向いた

「同室者ってだれだ?」

今それを言うのか。

あ、という顔をした生徒会のメンバー。
どうやら誰も知らなかったらしい。

そんな中、村上はひとり声なき悲鳴をあげ。
風紀委員長は首を傾げる。まだ何をするのか把握していないらしい。


勇希に視線が集まる中、質問された彼は顔を上げて同室者の名前を告げる。

「えっとな・・・や、やま・・・?えーっと、・・・」

どうやら彼も忘れてしまっているようで。

尊大な放送を入れてしまった手前、すいませんまた後で、なんてできるわけもなく。
格好悪いし。
困った、とみんなが顔を歪めたところ。


「・・・まだ、・・・ひ」
「え?」

ポツリと、村上が死にそうな顔色でつぶやく。
それに反応した勇希が村上に顔を向けて首を傾げる。

「おまえの同室者、」
「知ってるのか?!」

よかった!と、みんなの顔が輝く。いまだに風紀委員長は首をかしげたままだが。

みんなの期待が集まる中、村上は紙のように真っ白な顔で口をひらく。

「山田、優飛・・・さまだろ」

さま、っておまえ。
なんてツッコミは入らなかった。


優飛の名前を聞いた瞬間、メガネを落とす副会長。
なにもしてないのに転ぶ書記。可愛らしく転んでいるあたり流石というか。
そして動揺のあまり後ずさり、壁に背中を強打する会計。

生徒会長はというと。

「・・・や、まだ・・・だと・・・は、はは」

灰になりかけてました。

まるでコントのような光景の中。
風紀委員長は部下である優飛の麗しい顔を思い浮かべてますます首を傾げていた。

「ああ!それだ!山田 優飛!」
「さまをつけろ」
「ん?えーっと、山田 優飛さまだ!」

素直な転入生である。
満足そうに頷く村上。

ツッコミは不在である。


そんな中、灰になりかけていた伶は決心したように放送のスイッチを入れる。
勇者がここに!
と、生徒会長を尊敬の眼差しでみつめる生徒会メンバー

「・・・に、2年A組の山田 優飛。生徒会室にこ・・・くるように。」

どもっていたが。
むしろ、さまを付けなかったあたりを褒めたくなるくらい震えていたが。

そして早々に放送のスイッチを切り、放送室を飛び出す生徒会メンバー。
顔にはっきりと書いてありました。


「山田 優飛より先に生徒会室にいなければ!」
と。





死神の足音。中
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -