「山田、お前あとで職員室な」

とてもじゃないが聖職者には見えない、ホスト然とした男に呼ばれる。

ホストもとい、担任に顔を向けた優飛は灰色の瞳をふわりと細めて笑った。
その笑顔に周りの生徒たちの間から感嘆の息が漏れ

「はあ?職員室?めんどい。むり」

天使の微笑と称されるその優しげに笑った口元。
そこから飛び出た心底嫌そうな響きを持つ声に、それでもクラスメイトたちは「今日も山田様は美しいな」と惚れ惚れしている。
優飛と同じクラスになってから日々培われるすばらしきスルースキル。
中には頬を染めて、「その笑顔でぼくを蔑んで…!」なんて言ってるドエムや、偶然廊下から教室を覗いていた生徒がはじめてみる優飛の姿に衝撃を受けて硬直していたりするが。
まあ、それはさておいて。

ふわふわとした笑顔に甘い声。
それに似合わぬ言葉に、担任はあきれたように目を細める。
嫌だと言ったら滅多なことが無い限りそれを貫き通すのが優飛である。
担任についてまだ一ヶ月しか経ってないが、なんとなく優飛の性格は掴めてきた。
つまりコイツ絶対職員室来ない。と察したわけで。

「あー…、まあいいか。どうせいつか全員に知れることだしなぁ…。」

ひとつ息を吐いて、優飛を見やる。

「山田、お前んとこに転入生来るから。二人部屋になるからよろしくな」

ぽん、と担任が何気なく落とした爆弾に、優飛は小さく目を瞠った。
開いた口から担任へ抗議の言葉が出る前に、周りの絶叫になんとなく大人しく口を閉じる。

「やま、山田さまの部屋に転入生!?」
「なにそれうらやましい!」
「じゃなくて!同室者ってこと!?」
「ありえない!!山田さまは山田さまだから一人部屋なわけで山田さまに同室者ができるなんてそんなこと!」
「なに言ってるのかわからないけど、気持ちはわかるよ!山田さまに同室者ってダメだよね!」
「っていうか一人部屋とか空き部屋ないわけ!?」
「そうだよ!別に山田さまの部屋じゃなくっても…!」
「どうなんですか!?先生!?」

「ない」

ええええええええ!!!と再び大絶叫。
なんだかんだでこのクラスみんな仲良いと思うなあ、なんてぼんやり考える優飛。
なんか自分が文句言うタイミング逃した、なんてぶつぶつ呟きつつ、ため息をひとつ。

「まあ仲良くしろとは言わねぇけどな。いじめんなよ、山田」
「そんなめんどくさい真似だれがするか」

ぶすっ、と不貞腐れた顔を担任に向ける優飛。
クラスメイトは先ほどまで大絶叫していた口にチャックを閉め、二人のやりとりを見守っている。
断じて不貞腐れた優飛の表情が可愛くて目に焼き付けようとしてるだなんて、そんなことは。あるけど。

「んな顔しても迫力ねえ。綺麗な顔が可愛くなるだけだぞ。」
「うっさいホスト」
「あーはいはい、ホストじゃなくて先生と呼べ。」
「せんせいのばか」
「おれに文句言っても転入生がくる事実はなくならないからな。」

呆れたような苦笑を浮かべつつ、担任は優飛に近づくとぽんぽんと頭を撫でる。
むう、と表情をゆがめたあと、優飛はすっと表情を切り替えた。
いつもの「山田さま」の表情である。要するに無表情。
担任の手を頭からどけて、鞄を手に持つ。
それから顔を少しだけ担任のほうに向けて、首をかしげた。

「せんせい、話ってそれだけ?」
「これだけ。っつーわけで、お前らも解散!さっさと部活行くなりなんなりしろー


ぱんぱん、と手を叩いてクラスメイトに向き直る担任の背中から視線をはがして。

お引越しするか、と優飛は内心で決心した。
誰のところに?ってそれはもちろん。





「オレのところか。」
「うん。だめ?」
「だめじゃない。大歓迎。」
「そういうと思った。」
「荷物はどうする?」
「それなんだけどさ、よく考えたら、俺もともと自分の部屋あんまり行ったことなかった」
「…よく考えたら、ここの部屋にお前の荷物ほとんどあるんだった」
「ネームプレートは寮長に怒られたから持ってこれなかったけど…」
「じゃあそれっぽいの買いに行って、オレの部屋の扉につけとくか?」
「うん。」
「ゆうが同室者かー」
「雄介が同室者かー」

「結婚する前に同棲って大事な過程だよな」
「…がんばって家事習得する」
「おー、楽しみにしてる」

ちゅ、とキスをひとつ。ふたつみっつ。

雨のようにたくさんキスを交わして、えへへ、と笑いあう二人はどう見てもバカップルであった。





婚前交渉は有り派です。末永くお付き合いする上で相性確認って大事だよね。
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -