6 | ナノ


ある麗らかな午後、中庭にて。

「…すぅ……」

綺麗に整えられた芝生の上で、まるで猫や犬のように丸まって静かに寝息をたてる陸。を、見下ろす複数の影。

「か、かわいいな…」

そう呟いたのは誰だったか。
ごくりと唾をのむ生徒会役員に委員長たち。
陸を取り囲むようにして集う面々に、つっこみを入れられる人物は一人もいない。というか異様すぎて近寄りたくない。
艶やかな黒髪が芝生の上に散らばり、陸のキレイな顔が少なからず太陽の下に晒されているのだ。すやすやと眠りに就く陸に癒されながらも、バチリと視線を交わした面々は闘いのゴングの音が鳴るのを確かに聞いた。

「あんなに言ったのにまたこんなとこで寝るなんて、…まったく陸は、」
「美化委員長、陸にさわるな」
「ああ…? 松野に一番言われたくねェ科白だな」

呆れたような笑顔を浮かべて陸に手を伸ばした峻に、鋭く言い捨てる竜。一歩陸に近付きつつ、竜にイヤな笑顔を向ける譲。
高貴がそんな三人を見てからりと笑った。

「…ふぅん?まあ、睨みあうなよ三人とも。取り敢えず陸を起こすかどっか運ぶかしないと、冷えてきたから風邪引くぞ?」
「あ!ならならー」
「ボクたちがぁ」
「「陸先輩のこと運んであげるよっ」」

にこにこと笑顔を浮かべてハモる双子を尊は一瞥する。

「……おまえたちの体型じゃ無理だ。…オレが運ぼう。」
「とか言ってえ、いいとこ取りするなんて卑怯だよぉ?文化委員長?」
「陸は生徒会役員、僕が責任を持って運ぶので委員長のみなさんは引っ込んでて下さい」

尊が触れる直前、すかさず茜と満の横槍が入る。苦々しげに顔を歪めた尊は、鋭い目許で生徒会役員を睨みつけた。

「新歓の準備、仕事の一つもしなかったお前たちが生徒会役員?聞いて呆れる」
「っ、」

尊の言葉に役員たちが詰まる。
過去に戻れるならあのときの自分を殴ってやりたい。そして首根っこ引っ付かんで生徒会室に放り込みたい。…がそんなこと現実にはできないわけで。いまだ各委員長たちのように陸と接することができてないのも事実。拳を握り締める様子を峻は鼻で笑い飛ばす。ぎらぎらと睨み合う各人。彼らの足下で眠る陸の周りはひどく穏やかなのに、すこし視線を上にずらしただけでそこは極寒の地のようだった。

怖すぎて生徒たちが避けつつも遠くから見守る中、野次馬の中から歩みを進める人物が一人。

「陸、」

睨み合いを続ける面々に怖じることなく、穏やかな口調で陸の名を呼ぶ。

「…ん、」
「おきて、陸」
「……、りょう?」

呆気にとられる役員委員長たちをスルーして、陸に名を呼ばれた人物、稜は穏やかに微笑んだ。舌足らずに稜を呼んだ陸は、上半身を起こして目を擦りつつ淡く微笑む。傍らにしゃがみこむ稜に手を伸ばして抱き寄せた。

「稜、…いっしょに、ねよ?」

首を傾ける陸。桂木兄弟の前で見事に空気と化してしまった面々。その中から譲が一歩踏み出した。

「おい、陸」
「…あ、ゆず、る」
「こんなとこで寝るんじゃねェよ」
「…ん、…じゃあ、部屋戻る」
こくんと頷いて、稜を名残惜しげに離す。すい、と目の前に差し出された手をとって立ち上がる陸。

「高貴せんぱい、ありがとうございま、す」

手を差し出した高貴に、ちいさく会釈する。にかっ、と笑った高貴は陸の頭をがしがしと撫で回した。

「最近寒いからな、風邪引くなよ?」
「…は、い」

「で、陸?」
「しゅ、んせんぱい…」
「中庭で一人で寝るなって、いったよね?わたし」
「…、太陽が」
「太陽が?」
「あったかくて、眠くなって…、…ごめ、んなさい」

威圧感のある峻の笑顔に、しゅんとうなだれる陸。そんな陸に胸を押さえるみんな。先ほどまでの険悪な空気はどこへ。かわいいな、なんて胸中でハモってたりする。

「陸、」
「あ、尊先輩、も」

尊の存在にいま気付いたらしい陸に、苦笑を漏らす。高貴にかき回されてぼさぼさになった髪の毛を、撫でるように手櫛で整える。尊のてのひらに陸はくすぐったそうに肩をすくめる。

「、…あ、」

そんな委員長たちと陸の戯れる姿に、なにもいえず所在なさげに立っていた生徒会役員たち。彼らに気づいたらしい陸が小さく声を漏らして首を傾げる。しかしそれ以上声をかけることなく、稜の手をとった。役員たちのことを嫌いなわけじゃない。ただ、興味がないだけ。

「かえ、る。…、いこ、稜」
「今日は陸の部屋で夕飯を食べようか?」
「ん、…譲、も」
「なら途中でデザート買ってかえんぞ」

それを聞いた譲をのぞく委員長たちは、各々に陸に別れを告げて立ち去っていく。ふん、と再び鼻で役員たちをわらった峻に、ぎり、と拳を握る。


いつか、絶対

陸にこの手を選ばせてみせる。
そう胸に誓ったのは誰だっただろうか。

……………………
兎斗都さま、リクエストありがとうございました!
執筆遅くなってしまい申し訳ありません!午前一時にご訪問、ありがとうございますv陸争奪戦、こんな感じでよろしかったでしょうか?ステキなリクありがとうございました!

100412/ミケ


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