つものこと


(第三者視点)
生徒会役員が陸に惚れた後の話。未来IF設定。


生徒会室は今までにないほど甘い空気に包まれていた。それこそ、陸と稜が再会したあの日以上に甘い空気に。原因はいわずもがなその桂木兄弟にあるが。

冷たく冴え渡る美貌をゆるめ、纏う空気もどこかほんわりと柔らかな陸。滅多に表情の動かない顔に、幸せそうに陸はちいさく微笑を浮かべる。大きなふかふかのソファに腰掛けた彼は、その足の間に己よりも一回り小さな稜の体をすっぽりとおさめていた。

「稜、・・・ケーキ食べるか?」
「うん、ありがとう陸」

陸の胸に背中を預けて、稜は微笑む。

「・・・ひゃ、なにするの陸っ」
「・・・、クリーム、ついてた」

稜の唇のそばにちょこんとついた生クリームを舐め取る陸。まるで恋人同士のような二人に、それを眺める役員たちと道哉。少なからず陸を想う身であるため、二人が兄弟だとわかっていても目の前の光景はとても歯痒い。歯痒いが、完全に蚊帳の外に追いやられてしまっている上に、自分達では引き出せない陸の柔らかな表情に若干見惚れ気味である。・・・と思ったら、勇者がここに一人。

「り、陸っ、稜!このナッツクッキーも美味しいぞっ」

流石に空気の読めない彼も、この甘い空気は肌で感じ取るのか少々どもり気味である。それでも笑顔を浮かべてクッキー片手に二人に突撃するが、

「ごめんね、僕 嫌いなんだ」

稜の微笑みの前にあえなく撃沈。
嫌いってなにが?まさかおれ?いやいやいや、そんなまさか。ナッツクッキーのことだよな?・・・一昨日陸とナッツクッキー食べてる姿を見たなんて記憶から抹消してやる。
"何が"嫌いなのかを言わなかった稜に、勝手に深読みをしてダメージを受ける道哉。それを見ていた生徒会役員はほんの少しだけ恐怖心を抱く。少し前まで陸をないがしろにしてた仕返しなのだろか。あっさりてのひらをかえした貴方達を僕は信用してないから、とかそういうこと?実のところ"あっさり"というわけではないのだが、それは稜にとって些事でしかない。陸がいかに許そうとも、陸を苦しめていた彼らを稜は信用する気なんて皆無。大切な兄を渡す気もゼロである。今のところ稜の中で陸を任してもいいかな、という人は風紀委員長であり幼なじみの譲だけである。他の委員長たち?考え中。
稜よりも陸と付き合いの長い譲はともかく、陸が他の人たちより稜を優先させるのは目に見えている。つまり、稜に"大丈夫"と思われない限り至る所から妨害が入るのは必至。稜が「陸、ちょっといい?」なんて聞けば恐らくそっちを優先するだろうと易く想像できるから。

そこまで考えて、道哉含む陸除く生徒会役員全員が閃いた。稜に気に入られれば万事OKなのでは、と。
ご機嫌取り?情けない?いくらでもいうといい。そこまでしてでも陸が欲しいみんなの心はひとつ。

「稜くん、紅茶は好きですか? 今朝新しい茶葉を入れたところで、」
「他のケーキも食べない?稜ちゃん。美味しいって評判のお店のなんだけどお」
「そんなのよりー」
「こっちの、」
「「飴玉なんてどう?」」
「 好きなものを言え、運ばせる」

副会長を筆頭にめいめい稜にアピールしだす皆。ちなみに道哉は先ほどのダメージが思いのほか大きかったのか、まだ落ち込み中である。
そもそも甘いものは陸の大好物なので、甘味で稜にアピールしても意味ないわけだが。誰もそこを指摘するものは皆無。

下心が透けて見える全員に稜は苦笑いを返す。必死すぎてなんか逆に引く、とまでは言わないがまあ似たような心境である。
しかしそれを良く思わない男が一人。

「・・・、稜に触る、だめ」

大きい手のひらで稜の目を覆い、もう一方の手で腰を引き寄せる。足の間にちょこんと座っていた稜を更に抱き寄せた陸は、眉間に皺を寄せて周りを威嚇した。
全員がぽかんとする中、稜は必死に笑いをこらえる。陸の誤解がツボにはいったようだ。・・・つまり、陸の目線でいうと、役員達が稜を狙ってるように見えたわけである。まあ全員が全員必死な表情で稜に気に入られようとアピールしているのを見れば、陸でなくとも誰もがそう思う。

青い瞳を細めて威嚇する姿に、全員がっくりとうなだれる。見事なまでの勘違いが、陸に全然意識されていないことを物語っていた。

「陸、今日の仕事は終わったんだよね?」
「ん・・・」

威嚇し続ける陸の手を外し、稜が尋ねる。それにこくりと小さく頷く陸に、項垂れていたはずの全員の胸がキュンと高鳴った。可愛い。皆が皆胸を抑える中、稜はその顔に人畜無害な綺麗な笑顔を浮かべる。

「譲くんがプリン作ったから食べに来い、って言ってたよ」
「・・・いく!」

きらきらきら。ぱああ、と本日一番の笑顔をみせた陸に、その場にいた全員がう、とのけぞる。
のけぞっている中、稜は陸の手を引いてさっさと生徒会室を退散していく。胸へのキュンダメージが大きすぎて動けない全員に、にっこりと稜が微笑みかけた。

「自業自得って言葉知ってますか?」


陸を手に入れる日は遠い。むしろその日が来ない可能性の方が大きくて涙目であった。



とある未来のおはなし。






2010/03/24/


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