佐藤兄弟シリーズ

1 受験の切っ掛け


俺、籐堂滋郎(トウドウ ジロウ)は、隣に住んでいる幼馴染みの佐山太郎(サヤマ タロウ)と一緒に、高校の合格発表を見に来ていた。
太郎とは幼馴染みも幼馴染み、もうスーパー幼馴染みと言っていいくらい、ずっと一緒にいる。

何せ中学、小学校、幼稚園だけじゃない。生まれた病院、生まれた日まで一緒なのだ。ただ太郎の方が一時間程早く生まれたから、一応太郎の方が“兄”ってことになっている。

家が隣同士で仲が良かった俺らの両親ズもおもしろがって俺らを兄弟扱いするから、俺と太郎は家でも外でも常に一緒につるんでいた。
こんな俺らに対して、誰が言い出したのか佐山の佐と籐堂の籐を取って、ついたあだ名は“佐藤兄弟”。

中学ではすっかり、先生達の間でもこのあだ名が浸透しているんだから、どれくらい俺らが一緒にいるかがわかるってもんだろう。
そんないつでもどこでも一緒な俺ら(何かゲームでこういうのあったな)は、当然のように一緒の高校を受験した。というか、せざるを得なかった。

だってあれは確か進路表を提出する時。
いつものように二人で弁当を食べ、だらだらしていた昼休み。

「なー太郎。俺は家から近い田中高校受けるけど、太郎はどうすんの?」

本当はもうひとつ近所に山田高校ってのがあるけど、そっちは名前通り山の上にあって坂を上らなきゃいけないから、俺はパス。

「フッフッフッ。オレの進路はもうバッチリ決まってるもんねー!」

と、胸を張って得意げに言ってきたから、俺はあの太郎もちゃんと進路のことは考えているんだなぁと純粋に感動して、太郎の進路表をどれどれと覗き込んだ。

するとそこには、

<第一希望・じろー!>

<第二希望・じろーくん>

<第三希望・じろーちゃん?>

て、本来書いてあるはずの高校名はなく、なぜか俺の名前が書いてあった。

しかも何その俺の名前三段活用みたいなの! なんで最後だけ疑問形なんだよ。こっちが聞きてぇよ。
太郎はもうバカだから仕方ないとして、俺までバカに思われるじゃん! つか、むしろ名前書かれた俺の方が恥ずかしいからやめろ。

あーもー。純粋に感動した俺がバカみたいじゃん。俺の感動を返せ!
太郎のあまりのバカさ加減に俺が自分の頭を抱えていると、太郎が、

「ね? ね! オレの進路、バッチリでしょう?」

って、まるで犬がほめてほめてって言ってるみたいに目をキラキラさせながら俺の顔を覗き込んできたから、イラッときた俺はとりあえず太郎の頭に拳骨をくれてやった。

「いたい……」

太郎が涙目で俺を見てくるが、かわいい女子ならともかく、中三男子にされてもなぁ。

俺は深いため息をひとつつくと、太郎に向かって手を差し出した。
太郎は涙目のまま、頭にハテナマークを飛ばしてきょとんとしている。

ちくしょう。そんなバカ丸出しの顔すんなよ。なんかかわいいじゃないか。アレだろ? バカな子ほどかわいいって、こういうことを言うんだろう?

なんか悔しいから、太郎には言わないけど。

「ほら、太郎の進路表貸せよ。俺が書きなおしてやるから」

俺の言葉に、太郎の顔がパッと笑顔になる。
うん。お前のそうやってすぐに元気になるとこ、俺好きだよ。

俺は太郎から進路表を受け取ると、丁寧に丁寧にこれでもかってくらいしつこく綺麗さっぱり自分の名前を消してから、俺と同じ田中高校と書く。
太郎は書きなおした進路表を見ると、やたらなんか甘い声でうっとりと呟いた。

「……ほらね、やっぱりオレの進路はじろーだった」

「いや意味わかんねーし」

でも太郎がすごく嬉しそうにしているから、何だか俺も嬉しくなってきて、太郎の頭をよしよしと撫でてやる。
すると何を思ったのか、太郎は俺にガバッと抱きついてきた。

「ぐはっ!」

俺と太郎は似たような背格好とはいえ、全力で太郎に飛びつかれると正直つらい。俺は抱きついてきた太郎ごと後ろへ倒れそうになるのを、寸での所でどうにかたえる。

「じろーじろー! じろーだいすきー」

「ハイハイ。俺も太郎が好きだよ」

抱きついたままの太郎に苦笑いしながら、俺はまた太郎の頭を撫でてやった。
ったく。本当、太郎は俺のことが好きだな。どんなけ麗しい“兄弟愛”なんだよ。言ってて自分で恥ずかしいよこれ。

……っていうやりとりのせいで、俺らは同じ高校を受験することになった。
だってしょうがないだろう。こんなバカな“兄”、“弟”の俺が面倒を見ないで、誰が見るってんだよ。

帰宅してから夜、このことを両親ズに言うと、公立で授業料安いし、近いから交通費もかからなくて素敵だわって喜んでくれた。
……ん? 喜ぶポイントが微妙にズレていると感じるのは気のせいですか?

はしゃぐママ達の中で俺だけが浮いているような気がして太郎の方を見ると、太郎はリビングの二人掛け用のソファーで、隣に座った太一パパに背中をバシバシ叩かれていた。

「太郎よかったな。滋郎くんがしっかりしているおかげで、お前の進路もバッチリだな!」

「いやぁ〜」

何がそんなに嬉しいのか、太郎は照れると体をタコのようにくねくねとさせる。
え? そこ照れる所なのか? 照れるよりも先に俺にもっと感謝しろよ。

そんな太郎と太一パパの様子を笑顔で見守りながら、向かいの席でのほほんとお茶を飲んでいる司朗パパ。なんか孫の様子を見守る爺さんみたいなポジションになっているぞ。

あ、ちなみに太一パパというのは太郎のお父さんのことで、司朗パパが俺の親父。
お父さんって言うと、俺の親父と太郎のお父さん二人とも振り向くし。ややこしいよ。

だからどっちか区別したい時は、名前+パパ呼びをしている。同じ理由でお母さんのことも、名前+ママ呼びだ。

前に名前+お父さん・お母さんでは駄目なのか?と聞いたことがある。そしたらそれは二人が結婚した時の楽しみにとっておくと言われた。
俺は高校か大学でかわいい彼女を作り、卒業と同時に結婚するという壮大な計画を立てているからともかくとして、太郎はバカだから気の長い話だなと思ったのを覚えている。

まぁそんなわけで、俺と太郎は同じ高校を受験し、そして見事合格した。
合格者を発表してある掲示板の前でひとしきり喜んだ後、俺は携帯で由布子ママ(俺のお袋)に電話を掛ける。

プルルルル プルルルル

というコール音を聞きながら、俺と太郎はもう一度くすくすと笑いあう。
早く合格を伝えたい。
お気楽な両親ズだけど、太郎の両親も俺の両親も、俺ら二人の合格をきっと自分のことのように喜んでくれるだろうから。

『もしもし!? 滋郎?』

コール音から通話に変わり、太郎も携帯に耳を近付ける。

「うん、俺。あのね、二人ともちゃんと合格してたから」

『本当に!? やったー! えみちゃん今夜はお赤飯よー!』

『キャー! やったー!』

由布子ママと一緒にえみママ(太郎のお母さん)のはしゃぐ声が聞こえる。二人の喜んでくれている声が聞こえたのか、太郎はなんだかくすぐったそうな顔をしていた。
その気持ちわかるよ。俺も今、すっげーくすぐったいし。

俺らが携帯越しにまたくすくすわらっていると、由布子ママが話してきた。

『こっちでも食材用意してるけど、あんた達二人も何か食べたいのあったら、帰りに買ってきていいわよ? お金なら後で払うから』

「だって。どうする? 太郎」

「オレ肉!」

太郎が小学生見たいに手をビシッ!とあげて元気よく言う。

「『太郎はそればっかりね』だな」

俺と由布子ママの声がぴったりハモる。それを聞いて、えみママは横でケラケラと笑っていた。
えみママに笑われて、太郎は唇をむにっと尖らせる。一応すねているらしい。

『じゃあこっちはごちそうの準備に取り掛かるから、二人とも程々に帰ってらっしゃいね』

「うん」

『今夜はいつもより張り切っちゃうから、じろちゃんもたろちゃんも楽しみにしていてねー』

「はい。じゃまた後で」

電話を切った後も太郎はまだ唇とむにっと尖らせていたから、俺はくすっと笑うと、太郎の唇をつまんでやった。

「ほら、いつまでもすねてんなよ。俺、太郎の笑っている顔が好きだ」

と、言った途端、太郎の顔がパッと笑顔になる。

「うへへ。じろーにすきって言われたー」

「……」

んー。なんかニュアンス違うけど、太郎の機嫌がなおったから良しとしよう。

こんなふうに、俺らは生まれた時からいつも一緒につるんでいる。
今までも。これからも。
高校に合格して、春から始まる新しい“佐藤兄弟”の日々。まずはそのお祝いをしなきゃね。
俺と太郎は顔を見合わせてまたくすくす笑うと、今夜のごちそうに思いを馳せた。


―終わり―

→番外編 ハロウィン


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