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同期がスパダリすぎて彼氏ができない





心地良い木漏れ日が教室を照らし、思わず瞼を閉じそうになるが自分を叱咤して、眠気を吹き飛ばすように首を左右に振る。すると向かい合わせに座り、私の爪先に視線を落としている伏黒が徐に顔を上げた。

「寝不足か?」
『録り溜めしてたドラマ観てた』
「クマ凄いぞ」
『え、嘘…』

左手は使えないから、自由に動かせる右手で自分の頬に触れるが、もちろんクマがあるかどうかなんて分からない。任務が無いからって調子に乗り過ぎたか。目の下を軽くマッサージしてから自分の左手に目を向けると、綺麗に彩られ、輝いていた。

『本当に伏黒って器用だよね』
「まあ、お前よりは」
『失礼だね、君』

でも本当の事だから何も言えない。現にネイルをしたくても下手くそな私はガタガタになってしまうし、見るに堪えない仕上がりになるだろう。だが、嫌味を吐いた目の前の器用な男はサロンの様に仕上げてみせる。腹立たしい事に。

「ほら、右手出せ」
『は〜い』
「そっち乾いてねぇからぶつけたりすんなよ」
『ほ〜い』

塗られたばかりの左手を掲げ、外からの光に当てるとキラキラと煌めき、心が躍る。私達はまだ学生だから、贅沢出来るほどのお金は無い。というか私は呪術師として弱いから、任務自体あまり来ない。伏黒は二級だから忙しそうだけど。

『伏黒ってさ、彼女いる?』
「は?なんだよ、藪から棒に」
『気になっちゃって』

一見、冷たそうに見える彼だが、気を許した相手には意外と優しかったりする。私みたいなただの同期にも。今だって面倒臭いだろうにネイルを塗ってくれてるし、買い物に付き合って欲しいとお願いすれば、ついてきてくれる。たまに嫌な顔するけど。

『で?いるの?』
「いねぇ」
『え、そうなの?』

言葉を交わしながらも、次々筆を走らせる伏黒は本当に器用だ。微かに開いた窓から風が吹き込み、シンナーの香りが鼻を掠める。臭いとかうるさそうなのに、もしかして我慢してくれてるのかな。良い奴だ、本当。

『伏黒って車道側歩いてくれるし、荷物は持ってくれるじゃん?』
「見てて危なっかしい」
『ドアも抑えててくれる』
「お前、ガラス扉に挟まれた事あるだろ。重いって」
『本読んでる時に話しかけても、一旦閉じて聞いてくれるしさ』

改めて言葉にすると最高な男だな。私に彼氏が出来ないのって伏黒のせいなんじゃない?これだけいい男が近くに居たら、そりゃあ周りの男なんて目に入らないよ。理想だって高くなってしまうのも道理である。この短時間で小指まで塗り終えた伏黒は小さな瓶の中に筆を戻して顔を上げる。切れ長な瞳と視線が交わって、彼のまつ毛がふわり揺れながらゆっくり瞬きをする。

「そりゃあ好きな奴の話は聞くだろ」
『さっすが伏黒!………え?』

思いもしなかった言葉が耳を刺し、思考が止まる。今なんて行った?好き?好きって言った?え?誰が?誰を?混乱する頭を必死に巡らせ考えるが答えは出ず、ただただパニックに陥るだけだった。

『あ、あの、あのさ、』
「なに吃ってんだ」
『も、もしかして、ふ、伏黒サン…』
「なんだよ」
『私の事、その…、好きだったり、する?』

おずおず口に出すと、彼は何も言わずにジッと私を見つめる。そんな時間が数十分、いや実際は数秒だったのかもしれないが、私にとってはそれほど長く感じられた。そして時間をかけて伏黒が口角を上げる。伏黒にしては珍しい茶目っ気を出したのか。

『な、なんだ〜!冗談か〜!』
「本気だけど」
『え、』

ネイルを塗る為に握られたままの手がじんわりと汗ばんで手を引くが、それより強く伏黒に掴まれてしまい逃げられない。目を見開く私とは裏腹に、不敵に微笑む器用な男はそのまま口元へ手を寄せる。そのまま僅かにリップ音を響かせながら、私の手首へと唇を落とした。不意に伏黒と視線が重なったせいで体が大きく跳ねてしまう。なんだ、なんなんだ一体。言われなくても分かるぞ。なんか雰囲気が変だ。例えるなら、恋愛漫画、みたいな。流し目が絵になるのが妙に腹立たしくて言ってやりたいが、口が思うように動いてくれない。

「言っとくけど、誰にでもいい顔してるわけじゃねぇからな」
『へ、…え?』
「車道側歩くのも、荷物持つのも、扉抑えるのも、話聞くのも、ネイル塗ってやるのも、…全部、お前だから」

伏黒らしくない、甘ったるい音吐が鼓膜を揺らし、脳がぐわんと揺れる。今度は手のひらにキスをして、私の人差し指と中指を自身の唇に押し当てた伏黒は、目尻を緩め微笑んだが、その表情は狙いを定めた野犬の鋭い目付きそのものだ。

「で、どうすんだよ」

答えを促しておきながら、逃がす気がまるで無い視線を送られ、目が逸らせなくなる。すると、形のいい唇が薄く開かれ、私の指を軽く甘噛む。目の前の彼が彩った爪先が目に入るが、それと同時に彼の唇に目が行ってしまい、顔が熱くなる。風に乗って香った彼の優しい香りに気付いてしまい、余計に恥ずかしくなった。


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